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銀行・大株主がそっぽ向く「チーム前原・JAL再建案」の本当の狙い

【第96回】 2009年10月16日

 前原誠司国土交通大臣が日本航空(JAL)に送り込んだ「JAL再生タスクフォース」(チーム前原)は13日、「途中経過は知らせない」としていた方針を突如変更し、JAL経営陣らに再建の素案を提示した。

 報道・取材を総合すると、その最大の特色は、前原大臣がこれまで示してきた「自主再建」の方針を撤回し、取引先銀行に2500億円を超す債権カットを求めるなど、外部に重い負担を要求する内容に変質したことがあげられる。

 その半面、JAL自身の自助努力としては、西松遥社長の辞任と整理する人員数の増加(当初の6800人から9000人に拡大)を迫ったのが目立つぐらいなのだ。

 このため、銀行や大株主は、再建が軌道に乗る保証はなく、とても支援には応じられないと反発するだけでなく、そもそもチーム前原が素案作りを行う法的根拠がない点を問題視する向きが増えている。

 「再生のプロ」と前原大臣がお墨付きを与えたタスクフォースはいったい、なぜ、このような反発を招き、合理性に疑問符が付く素案を打ち出したのだろうか。今後の見通しと併せて、その背景を探ってみた。

民間企業に国が再建チームを
送り込む根拠への疑問も

 チーム前原は、前原大臣が9月25日に、設置、JAL内部に送り込むと発表した。同大臣は、西松JAL社長が前日に説明した再建策を「実現可能 性、或いは時間軸について、不十分だ」と決めつけた。そのうえで、「1日でも早く本来あるべき自主再建案をまとめるためにタスクフォースを立ち上げたいと いうことを申し上げ、(訪米中の)鳩山総理から了解を頂いた」と述べた。首相の承認も得た組織だと権威づけをしたのだった。

 その5人のメンバーについては、「事業再生の実務をやって来られたプロの方々」と補足した。ちなみに、メンバーは、野村証券顧問の高木新二郎氏や、経営共創基盤取締役の冨山和彦氏など旧産業再生機構の出身者が構成員(5人)のうちの4人を占めている。

 ただ、前原大臣の説明にもかかわらず、当初から、こうした手法を問題視する指摘が存在した。というのは、民間企業であるJALに、こうしたチーム を送り込んで、経営陣に代わって再建策を作ることを良しとする根拠が、一般法はもちろんのこと、国土交通大臣の所管の航空法という業法にもないためだ。

 その後、このタスクフォースの行ないがひんしゅくを買う“事件”があった。10月8日付けで時事通信が配信した記事に詳しいが、タスクフォース傘 下の人員が「当初計画の3倍以上、延べ100人規模に急増」し、その「経費が10数億円以上で、ほぼ全額を日航が負担する方向で調整中」のため、「同社の 財務への影響も懸念されている」というものだった。換言すれば、企業として生死の境をさ迷うJALの資産を貪るようでは、かつて、経営危機に陥った企業を 買い叩き、転売によって暴利を貪ることが忌み嫌われた“ハゲタカ”となんら変わらないのではないか、ということだったのだ。


 そうした中で、タスクフォースは13日、急きょ、それまでの方針を変更して、前原大臣や経営陣、取引先銀行などに今回の素案を提示した。実は、当 初、タスクフォースは、再建案について、作成にあたっては経営陣の意見を聞かず、途中経過を経営陣に知らせることもせず、その一方で、タスクフォースがま とめたら3日以内に取締役会で決定すべきもの、などと位置づけていた。

 が、そうした取りまとめ手法は、あまりに独善的であり、現実離れしているとの批判が関係者の間で沸き起こった。それゆえ、やむを得ず、タスクフォースは対応を改めたらしい。

 とはいえ、その説明はかなり、お粗末なものだったようだ。経営陣への説明を例にとると、「タスクフォースは素案を記した書面すら出さず、スライド を使って説明しただけ。しかも、数字がわざわざ伏せてあり、口頭で言及しただけだった」(JAL関係者)というのだ。そこまでして、証拠を残したくなかっ たらしい。

タスクフォースの5人を
執行役にするとの要求

 それでは、肝心の中身について触れていこう。一般的に、こうした再建策では、(1)ビジネスモデル(事業の採算性)の見直し、(2)経営(ガバナンス)の再構築、(3)財務(資金繰りとバランスシート)の健全化――の3要素が不可欠だ。

 こうした視点で見ると、まず驚かされるのが、(1)なのだ。というのも、今回の素案は、先に、前原大臣が「不十分」と決めつけたはずの西松案をほ ぼ丸呑みする内容にとどまっているからだ。赤字路線の縮小や、貨物・リゾート路線の分離・別会社化・提携といった施策について、JAL経営陣への説明の席 で、口頭ながら「よくできている」と褒める場面まであったという。

 次に、ガバナンスについては、西松社長に経営責任をとって辞任するように求めたのが最大のポイントだ。西松社長の退陣は当然のことで、むしろ、遅過ぎたぐらいだろう。

 とはいえ、そのうえで、タスクフォースのメンバー5人を執行役にするように要求していることには留意すべきではないだろうか。その一方で、外部か ら大物CEO(経営最高責任者)を招へいする方針と、JAL内部から40歳代のCOO(経営執行責任者)を登用する方針を打ち出しているのだが、その実施 を来年1月まで先送りすることにしているからである。要するに、タスクフォースが権力を掌握して、その間に強引に再建を進めるというのである。

 さらに、来年1月以降については、タスクフォースのサブリーダーで、実質ナンバーワンと言われる冨山氏がCEOに昇格する案が有力であり、そのために、年齢的に冨山氏でも御しやすいよう登用するJAL出身COOを40歳代にするのだとの解説もあるという。

 そして、肝心の財務の内容だが、JAL再建の最大のネックで、負のレガシーコストの所産とされる債務超過額について、専門家の間では「清算価値を 前提にすれば、実質1兆円を超えても不思議はない」(大手監査法人)といった見方が多い中で、素案は最小で実質2500億円、最大で実質8000億円とか なり保守的な分析にとどめた模様だ。

 一方、資金・資本戦略については、当初のJAL案(ディスクロージャーされたものはない。筆者が取材できた範囲で述べる)が、航空会社の国への上 納金的な性格が強い航空機燃料税や空港使用料を通じた社会資本整備事業特別会計空港整備勘定への資金納入負担の減免(もしくは支払い猶予、2年間に 1700億円)、銀行の返済猶予(2年間で、約2000億円)などで当面の資金繰りを確保しつつ、並行して、複数の資本提携や改正産業活力再生特別措置法 (産業再生法)に基づく公的支援(目標2500億円)で資本増強も進めていこうという戦略だったとされる。

 前述のように、タスクフォースも素案をきちんと公表していないため、こちらも全容は不明だが、新聞報道と筆者の取材を抱合すると、JAL当初案に あった銀行に対する返済猶予の要請が、いきなり、銀行に対する債権カット(2500億円)と債務の株式化(DES、500億円)の要求に置き換わった点が タスクフォース案の最大のポイントとみられる。

 そこで浮上してくる疑問が、この程度のプラン変更、つまり、銀行への要請を、返済猶予から債権カットに切り替える判断の問題に、なぜ、時事電が伝えたような延べ100人がかりの作業が必要だったのか、というものだ。

銀行は債権カットに
応じられない?

 一方、債権カットは銀行に重い負担を強いる。明らかな金融支援である。何を指摘したいかと言うと、前原大臣が繰り返し述べてきた「自主再建」が、いつの間にか、放棄されてしまったということだ。

 しかし、市場は、この不意打ちに動揺を隠せなかった。もともと株価の低いJAL株は13、14日の2日間で、さらに9円も下落して128円に下げ た。さらに15日には、上場来安値を更新する始末だった。加えて、みずほフィナンシャルグループも13、14の2日間で、10円安の177円に下げた。 JALの大株主のある大手上場企業は14日の筆者の取材に、改めて「我々のように株主でもないのに、何の権限で、社長退陣要求や債権カット要求などの案を 作成しているのか」とチーム前原への怒りを露わにしていた。

 もしかしたら、前原大臣は、「法的整理に進まない限り、自主再建だ」とでも言い張るつもりかもしれない。が、これは詭弁も甚だしい。この間、 JALの経営危機を印象付ける発言を繰り返し、海外の旅行代理店が現金決済が前提でないとJALのチケット販売を手控える構えを見せるなど、信用不安は広 がった。こうしたことも含めて、前原大臣のその経済音痴ぶりは目に余る。政治責任を含めて、きちんと方針転換の釈明をすべきだろう。

 もっと気掛かりなのは、債権カットについて、主力各行がそろって、筆者の取材に「ハードルが高過ぎる」「こちらが株主代表訴訟を受けかねない」「無理だ」「銀行経営の屋台骨が揺らぐ」と語り、「債権カットには応じられない」との考えを示していることだ。

解体・転売を目指して
いるのではとの見方も

 JALの取引先金融機関は30を超えている。このため、「仮に、事業再生ADR(裁判外紛争解決)手続きをとったとしても、全体の足並みが揃うとは考えられない」(主力行)との見方も強い。結局のところ、時間の制約もあり、素案は実現性が極端に低いのだ。

 タスクフォースはいったい、どういう腹積もりがあって、このようなプランを打ち出したのだろうか。

 その疑問に答えてくれたのは、あるエコノミストだ。「(周りが素案を)呑まないことを見越しているに違いない。そのうえで、法的整理・清算・解体・転売処理に持っていく一里塚と位置付けているのではないかとみています」というのである。

 この指摘を裏付けるかのように映るのが、タスクフォースの実質リーダーである冨山氏の過去の実績だ。先に述べたように、前原大臣は「事業再生の実 務をやって来られたプロの方々」と称した。が、実際は賛否両論に割れている。例えば、産業再生機構については、「黒字のうちに使命を終えて、社会的な貢献 を果たした」(外資系証券)との賛辞がある。「民間人には珍しく、マクロ、ミクロの両面から広く経済をとらえる視野がある」(金融庁中堅幹部)といった高 い評価もある。

 しかし、企業再建に焦点をあてると、ニュアンスが異なってくる。

 というのは、冨山氏は昨年、不動産ファンド大手のパシフィックホールディングスで表明していた資金調達をできず、この会社を自ら再建することに失 敗しているのだ。また、AVメーカーのパイオニア再建でも今春、300億円の公的資金による資本増強方針を打ち出しながら、これを実現できていない。

 むしろ、冨山氏の成功例と言えば、「伝統ある企業の解体・切り売り」(米系証券)との批判もあったカネボウ、「3グループの買い手のうちなぜ丸紅 グループを選ぶのか不明」(雑誌編集者)と揶揄されたダイエー、そして、「地元のバス・タクシー会社に保有株を転売しただけ」(九州の大手地場企業経営 者)とされたスカイネットアジア航空……。つまり、成功例は、自ら再建したのではなく、「転売による再生というファンド的ビジネスが目立つ」と米系証券、 雑誌編集者、九州の大手地場企業経営者らは口を揃えるのだ。

 それゆえ、件のエコノミストが指摘するように、「今回の素案は銀行など周囲の協力を得られないことを証明するのが目的。最終的に、得意の手法である解体・転売に持ち込むための方便だ」との見方も浮上してくる。

 その一方で、前原大臣はここへきて、羽田空港の国際化・24時間化・ハブ化を打ち出した。実現すれば、羽田の設備を全日空と2分して所有するJAL買収の魅力が高まるのは確実だ。

 また、長年、放漫経営を続け、社会的に経営が見放されつつあったJALがどのような形で処理されても、国民の不興を買う可能性は小さい。

 エコノミストの、JALは「チーム前原」主導で、解体・転売への道をひた走っているとの指摘は現実味を帯びてくる一方だ。