Tokyo20110223
【社説】NHK会長引責 政治の介入招く『甘さ』 Tokyo Web
2008年1月23日
記者ら三人による株式インサイダー取引の責任をとりNHKの橋本元一会長が辞意を表明した。自民党からは全理事の辞任要求が出された。報道機関としての自覚の甘さが政治介入を許している。
「就業中に携帯電話を使って株取引をするとは法律以前の内部管理の問題だ」「会長だけではなく理事全員が辞表を出すべきだ」
二十二日開かれた自民党の電気通信調査会で、橋本氏は出席した同党の国会議員から次々に責任を問い詰められた。
橋本氏は会長の権限である内部人事まで口出しされても、答えは「甘かったと言わざるをえない」。会長が辞意を表明、理事二人も辞任し、政治家の介入まで許しては、報道機関としての体をなしていると言い難い。異常事態というべきである。
内部システムの情報を利用して株を購入、売却益を得たというもので、新たに二人が勤務中に購入し五百人以上の報道担当職員が広く株取引していた実態も明らかになった。
橋本氏は事態の深刻さを軽視した、という批判がNHK内部にもある。信頼を失って再び受信料の不払いを招いてはという、ためらいが後手の対応になったのだろうか。
安倍晋三前首相はNHKの最高意思決定機関である経営委員会の委員長に自らの人脈に連なる富士フイルムホールディングスの古森重隆社長を送りこみ、その古森氏は二十四日で任期切れの橋本氏の後任に、同じ経済人の福地茂雄アサヒビール相談役を指名した。菅義偉前総務相は強引ともいえる手法で、ラジオ国際放送で拉致問題を重点的に扱うようNHKに迫り、摩擦を起こしている。
法令順守の軽視というワキの甘さが政治の側につけいる余地を与えたといっても過言ではあるまい。橋本氏の前任、海老沢勝二氏も不祥事を機に会長ポストから去っており、二代続けての引責辞任である。謙虚さを失った組織は何とも危うい。
一九八九年以降続くNHK出身者の会長昇格が二十年足らずで途切れる結末となった事実を重く受けとめるべきだ。間もなく会長は福地氏に引き継がれ、経営委員長も現場のトップも経済人という異様な陣容に替わる。政治からの圧力に抗しきれるのか気がかりだ。
後手後手の対応が報道機関としての中立性や独立性を自ら狭めてしまうことに、NHKはもっと敏感であるべきだ。報道機関は取材内容を報道目的だけに使う。取材はそうした信頼が成り立ってこそ可能になり、広く国民の「知る権利」に応えられる。この当然の覚悟を揺るぎないものにしなければ組織再生は難しい。
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NHK会長 自主自律の人を透明に 2007年12月22日
報道機関であるNHKの会長に財界代表はふさわしくない。政治との距離が近すぎる人による強引な選考も視聴者の期待に反する。放送の自主自律を貫ける人を、透明な手続きで選ぶべきである。
来年一月下旬に任期切れの橋本元一NHK会長の後任候補に、福地茂雄アサヒビール元社長が浮上した。
会長任命権を持つ経営委員会の古森重隆委員長は二十五日の委員会で決定する方針というが、委員会運営が独断的だとする批判も委員の間から出ており、成否は不透明だ。
福地氏の適否はともかく、古森委員長主導の新会長選びは財界人中心で経営の視点を偏重している。
古森氏はNHK会長も企業経営者も、求められる資質は同じであるかのような発言をしているが、会長は決して会社の経営者ではない。まして経営委員の部下でもなく、報道機関の最高責任者である。それにふさわしい人物でなければならない。
経理不正と番組編集への政治介入で揺れたNHKに求められた抜本改革とは、報道機関としての独立、自主自律の実現だった。
不祥事の後に制定された新生プランにも「何人からの圧力や働きかけにも左右されることなく、放送の自主自律を貫く」と明記された。
自主自律を貫くために最も必要な会長の資格要件は高いジャーナリズム精神の持ち主であることだ。予算の国会承認制など政治との関係が微妙なだけに、報道機関の使命を十分認識した人でなければならない。
公共放送の手本といわれる英国のBBCは、客観的であれと常に心がけ、厳しい政府批判もする姿勢が国民の信頼を得ているのである。
受信料で成り立つ放送局という特殊性を考えれば、視聴者に目を向けた運営ができる人でなければならないのは言うまでもない。
経営面に偏った舵(かじ)取りは新生プランを空文化し、放送文化を圧殺してしまうだろう。
古森氏は安倍晋三前首相を囲む経済人グループに属し、前首相の意向で経営委員長に送り込まれた。前首相は官房副長官当時、従軍慰安婦に関する番組作りでNHKに介入したことがある。
古森氏自身も「選挙期間中の放送については、歴史物など微妙な政治問題に結びつく可能性もあるため、いつも以上に注意を」と番組の内容にまで口を出した。
これでは、政治家や経済界と距離を保てる人物が後任会長に選ばれるか、強い危惧(きぐ)がある。委員会の議論を公開するなどして、透明で公正な選考作業に切り替えるべきだ。