アナログ放送終了まであと1年 電波は止められるのか

池田信夫の「サイバーリバタリアン」 ― 第121回
アナログ放送終了まであと1年 電波は止められるのか
2010年07月21日 12時00分更新  文● 池田信夫/経済学者

500万世帯以上を残して放送を打ち切れるか

 2011年7月24日に予定されているアナログ放送の停止まで、あと1年と迫った。はたして本当に電波を止めることはできるのだろうか。NHKの調べによると、今年6月末の地デジ対応テレビは5081万台、デジタルチューナー(チューナー内蔵録画機も含む)が1809万台、ケーブルテレビ用セットトップボックス(STB)が893万台で、合計約7783万台がすでに「地デジ化」しているという。

 このうち地デジ対応テレビが約5000万台というのは信用できるが、これとデジタルチューナーを合算することはできない。地デジ対応テレビを買っている家庭では、DVDレコーダーなどにも地デジチューナーが入っているはずで、チューナー単体を買う家庭はほとんどない。したがってSTBを足した5974万台というのが実態に近いだろう。これは全国に1億3000万台あると推定されるテレビの半分にも満たない。かなり強気にみて今後1年間で2000万台増えるとしても、来年7月の段階で5000万台以上のテレビが“強制終了”することになる。

 このように見えなくなるテレビの大部分は粗大ゴミになる。恐るべき量のゴミが一挙に排出され、ゴミ処理場がパンクすることが懸念されている。その代わりに新しい地デジ対応テレビを買う人は、どれぐらいいるだろうか。特に若者の間ではテレビの普及率は低く、半数ぐらいはテレビをもっていない。そういう若者はアナログ停波をきっかけにしてテレビを見るのをやめ、携帯やPCで情報を得るようになるだろう。つまりテレビの視聴者は、来年7月をピークとして減ってゆくと推定される。

総務省の資料より

 問題は台数よりも、世帯普及率がどれぐらいになるかである。総務省の浸透度調査では、今年3月の段階で83.8%、来年4月には100%になると予測しているが、そんなことはありえない。内閣府の消費動向調査では薄型テレビの世帯普及率は70%前後である。テレビだけを替えてもアンテナをUHFに替えなければ地デジを見ることはできないが、集合住宅のうち地デジ対策が完了したのは70%前後であり、特に関東地方では40%を下回っている。現在の世帯普及率を70%とすると、1年後の普及率は最大90%(4500万世帯)だろう。

電波を止めるならホワイトスペースの開放を

 このように2011年7月の段階では、どう楽観的にみても500万世帯以上にアナログテレビが残り、大量に「地デジ難民」が出ることが予想される。この状態で電波を止めるべきだろうか? 世界各国にも500万世帯も残したまま放送サービスを打ち切った前例はなく、アメリカではアナログ放送終了を2度にわたって延期した。拙著『新・電波利権』でも書いたように、7月24日という日付は郵政省と大蔵省の取引によって決まったもので、技術的な必然性はない。

 このため日本でも専門家が、アナログ放送停止の延期を求める提言を発表した。彼らはアナログ放送の「跡地」となるVHF帯を利用する「マルチメディア放送」はビジネスとして見込みがないので、アナログ停波を急ぐ必要がないと主張している。たしかに現状のまま停波を強行することには問題が多いが、そのメリットは小さくない。

 重要なのはVHF帯ではなく、UHF帯のホワイトスペースが使えるようになることだ。現在のアナログ放送の電波は干渉に弱いため、チャンネルが空いていても、ほかの用途に使えない。アナログ放送が止まると、デジタル放送の中継局は干渉に強いので、空いているチャンネルを無線LANなどに使うことができ、最大200MHzの周波数が利用可能になる。これによって開放される帯域は700MHz帯も含めると300MHz以上にのぼる。

 これは今、UHF帯で携帯電話の使っている帯域を上回り、時価3兆円以上の価値がある。これを次世代携帯(LTE)や無線LAN(関連記事)などに開放すれば、今の携帯電話に匹敵する新たな産業が生まれる可能性もある。その帯域の一部を周波数オークションにかければ、500万世帯に配るチューナーの費用300億円も楽に捻出できる。

 地方民放の延命のために数千億円の国費を投入して行なわれた地デジは、日本の歴史に残る愚かな公共事業であり、テレビ離れを促進して瀕死の放送業者の死を早めるだけだろう。地デジには何の意味もないが、アナログ放送の終了には大きな意味がある。500万世帯以上に犠牲を強いるなら、放送業者がわずか7チャンネルのために50チャンネルもふさいできた貴重な電波を開放し、放送局からネットビジネスへの新陳代謝を進めることが、アナログ停波の絶対条件である。


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