【NTT】ようやく見えてきた収益構造の転換 そこに降ってわいた“新たな難敵”

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光回線を使った高速ブロードバンド通信は、バラ色の未来が喧伝される。巨額の赤字を出しながら、設備投資を続けてきたNTTだが、ようやく黒字化が見えてきたところで新たな難題が飛び出した。

 NTT東日本は、過去10年間続いていた「減収」から脱却し、初の「増収」に転じた――。  8月5日、NTT(持ち株会社)は、2010年4~6月期の連結決算(米国会計基準)の純利益が前年同期比で12%増の1559億円となったことを発表した。 
今回の第1四半期決算の注目点は、これまで連結営業利益を牽引してきたNTTドコモとNTTデータが減益となった一方で、苦戦続きで長期低落傾向にあったNTT東西の業績が上向き、全体では増益に持ち込んだことにある。 その大きな理由は、光回線などのIP(インターネット・プロトコル)関連の収入が、固定電話などの音声による収入の落ち込みをカバーするように なってきたからである。それは、図にあるように、経年の「純増数」(新規契約数から解約数を引いたもの)で比較すると一目瞭然だ。

 NTTは、08年に発表した「新中期経営戦略」のなかで、10年度末までにIP関連のサービスだけで、売上高構成比の3分の2まで拡大するという 目標を立てている。三浦惺社長は、「第1四半期の時点で63%となっており、年度末までにほぼ達成できるのではないか」と前向きの姿勢を見せた。  1999年の「NTT再編」で4社に分割されて以来、NTT東日本は、一度も増収になったことがなかった。毎年、下がり続ける需要の減退を大規模 なリストラでしのいできたのである。ある中堅幹部は、こう振り返る。「過去10年かけてできた1兆円の需要減を、同じく1兆円分のコスト削減によって埋め 合わせしてきた」。

 たとえば、分社化された翌年の2000年以降はベースアップを見送り、02年からは賃金を3割カットした。加えて、01年から03年までの3年間は、新卒の採用を凍結した。今でも、ベースアップなしの状態と賃金カットは続く。  ほかにも、営業拠点の集約では、98年から08年までの10年間で、対人による営業窓口を335から19、電話番号の問い合わせセンターを77から20、料金センターを73から9へと激減させた。

 その苛烈なリストラのなかでも、NTT東日本は、毎年1000億円以上の巨額の赤字を出しながらIP関連の先行投資を続けてきた(前ページの図2を参照)が、ようやく実を結びつつある。これで長年の懸念だった“収益構造の転換”が視野に入ってきたのだ。
 そして、この10年間、同社を苦しめた要因は、もう一つある。NTT東日本が持つネットワークは、ドミナント(支配的な地位)になりうる設備だと して、競合他社に有料で貸し出すことが義務づけられていた。その際の貸出料金は、光回線の普及を促進するために、01年の時点で向こう7年間の将来需要を 予測し、あえて高めに設定した目標を7年分に加重平均した同一料金に固定された。

 だが、図3を見てもらえばわかるように、接続料と実績コストには大きな“乖離”がある。その乖離は、08年から負担を軽減する算出方法に変わるま で、NTT東日本がかぶってきた。それが、1芯(1本)当たり4047円と、ようやく実際のコストが目標の水準に追いついてきたのである。

「光の道」構想からは
逃げられないNTT

 ところが、国内で唯一、光回線のネットワークを網羅的に敷設し続けてきたNTTが、10年かけて下げたコストに対し、現状の約3分の1以下の「1400円でできるはず」と言い出した人がいる。

 その人、ソフトバンクの孫正義社長は、06年には公聴会の場で「690円で可能」と言っていたが、現在は「1400円で可能」とブチ上げている。 この“破格値”の算定根拠は、いま一つ不明確なのだが、「光の道」構想(2015年までに全国6200万世帯すべてに光回線を張り巡らす計画)でも、ソフ トバンクからの提案として出されている。 ただし、この1400円の算定根拠については、多くの有識者から疑問の声が上がっており、工事の実務ノウハウを有するNTT東西、そしてジャッジする総務省にも、実現可能性を信じる人はほとんどいないと言われている。

 しかも、「光の道」構想は、高速ブロードバンド通信を必要とせず、現状の固定電話で十分だと考えるお年寄りの世帯まで含めて、強制的に100%光 回線に置き換えるというものだ。100%の光回線ができれば、ソフトバンクは自社で巨額の設備投資をすることなく、NTTから安価に借り受けることで、事 業を展開できるという巧妙な“仕掛け”も隠されている。

 にもかかわらず、孫社長と意気投合した原口一博総務大臣の肝煎りの政策ということで、「光の道」構想は次期通常国会に法案として提出される運び だ。そのための地ならしなのか、この8月末には民主党政府から「光の道戦略大綱」なる中長期ビジョンが発表されることになっている。

 NTT陣営にしてみれば、一難去ってまた一難である。「光の道」構想には、既存の電話回線(メタル線)をはがして、すべて光回線に張り替えるとい う計画が盛り込まれている。また、ネットワークを持つNTT東西を公社化して、インフラ設備だけを切り離すといった“極論”まで含まれる。

 ソフトバンクだけならまだしも、最も怖い原口大臣までかんでいるとなると、話は別だ。せっかく、業績が上向いてきたのに、新たな厄介事が降ってくる可能性が出てきている。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)