総選挙直前に政府は露骨なメディア介入をしています。
→11月28日に各紙が報じた”選挙報道「公正に」 自民、テレビ各社に要望文書”(注1)
この件で当会は12月4日NHKを訪問し「自民党からテレビ局各社への放送法違反の「要請」に関する質問状」を提出しました。
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NHK会長 籾井勝人様 2014年12月4日
自民党からテレビ局各社への放送法違反の「要請」に関する質問状
NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
共同代表 醍醐 聰・湯山哲守
私たちは貴局が放送法と放送ガイドラインに基づき、健全な民主主義の発達と視聴者の知る権利を実現すべく編集・放送されているか否か、日夜注意深く見守っております。
さて、自民党が、萩生田光一・筆頭副幹事長と福井照・報道局長の連名で、11月20日付でNHKと在京テレビキー局各社に対して、今回の選挙法報道につい
て、「公平・公正」を標榜しながら、事細かに干渉する要請をしたと報じられています(28日付毎日新聞)。それは、「選挙時期における報道の公平中立なら
びに公正の確保についてのお願い」と題し、過去にある放送局が「民主党政権交代実現を画策して偏向報道を行」ったとして、
1.出演者の発言回数及び時間等については公平を期していただきたいこと
2.ゲスト出演者等の選定についても公平中立、公正を期していいただきたいこと
3.テーマについて特定の立場から特定政党出演者への意見の集中などがないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと
4.街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと
の4項目の要望をしたということです(要望内容は「要請文」から)。
ま
た、報道によれば、この要請は、「文書を一方的に送るという形ではなく、自民党記者クラブに所属する各テレビ局の責任者を個別に呼び出して、文書を直接手
渡した・・・今回は口頭でも、いろいろ注文をつけたようですね。これは、要望という範囲を超えていて、『恫喝』という印象を与えかねないものです」という
指摘もあります(田島泰彦氏のインタビュー記事、「弁護士ドットコム
」11月29日(土)14時14分配信)。もしこの指摘通りであるならばその行為は前代未聞というべきものです。
さらに、【ニューズ・オ
プエド「NOBORDER」】は、「スクープ!自民党のテレビ局への報道圧力」と題して、次のようにインターネット報道をしています。この報道では、
5'16"から「今日(11月27日)取材したある人によれば”選挙前 政策について言っては駄目だ。事実関係だけを淡々と述べてください。」と言われた
との証言を紹介しています。
http://www.youtube.com/watch?v=Q2TLTB8V1Uk&feature=youtu.be
私たちは、一般的にいえば、市民運動と違って、政権をめざす政党がマスメディア各社の報道に関して「注文を付けること」には、憲法21条に照らして、慎重
かつ禁欲的であるべきだと考えます。ましてや政権党による報道機関への干渉は決して許されるべきではありません。しかも今回の自民党による要請の「標題」
は、一見放送法第1条、第4条の言葉を用いて一般的に報道の公正性を求めているように見えますが、内実はそうではありません。上記の4項目は、明らかに
「一般的な要請」を超えた具体的報道内容に対する「介入・干渉」そのものです。同法第3条「何人からも干渉、または規律されることはない」に明白に抵触し
ます。
上記毎日新聞の報道、および朝日新聞「社説」は、「NHKは『文書が来ているかどうかを含めお答えしない』としている」と報じて
いますが、もしそれが本当ならば、これは由々しきことといわねばなりません。放送法に違反した「自局・NHK」への政権党の干渉に対してそれを「報道しな
い」という態度は、国民・視聴者の「知る権利」に対する不感症というべきではないでしょうか。ジャーナリズムの役割を自ら捨て去った自殺行為です。
改めて質問します。
① NHKにもこの文書は送られてきていたのか否か? ② 内部でどのように取り扱われたのか。 ③ もし「送られてきた」にもかかわらず、それを明らかにしないというのであれば、その理由を明らかにしてほしい。 |
以上の質問・要望に誠意を持ってお答えください。「要請」が来ているにもかかわ
らずこれを見過ごし、放置するならば、NHKは自民党のこの要請を「許し、実行」しているものと見なさざるを得ません。公共放送であるNHKがこのような
干渉に屈し、政権党におもねた報道を行うことを決して見逃すことはできません。
質問状に対する回答は、一週間以内(12月11日)までに下記にお送りくださるよう要望します。
〒***(略)
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提出時のNHKとのやりとりは以下のとおりです。
(NHK会長への質問状提出の報告)
自民党からテレビ局各社への放送法違反の「要請」に関する質問状
12月4日 13:00~13:35
NHK:NHK視聴者部 山本副部長
NHK視聴者部 太田副部長
視聴者コミュニティ:醍醐、渡辺(2名)
初めに、持参した質問状の趣旨や経緯について、約15分説明。
視聴者コミュニティ:
安倍首相が民放の番組に出演して、その時に流された街頭インタビューに対して不満・注文の発言をしたことに端を発し、政権党から異例の要請が出されたと理
解している。選挙で審判を受けるべき政党が、このような対応をすることには慎重であるべきで、今回の対応は限度を超えている。政権党として、各テレビ局の
責任者を呼び出したのは問題だ。
≪主な質疑≫
視聴者コミュニティ:NHKに自民党からの文書が届いているかどうか答えないと伝えられている。改めて尋ねるが、どうなのか?
NHK:口頭で答えれば、文書回答は不要か?
視聴者:文書回答は頂きたい。
NHK:正確には文書で答える。NHKには、いろいろな方から沢山の意見を貰っているので、ひとつひとつにコメントすることは無い。
視聴者:「いろいろな方」という言い方をすると、政党のほかに市民団体や個人も含んでいるように思える。
政
党についていえば、私たちも自民党以外からも報道機関に対して「公平公正な報道」の申し入れがあったと承知している。この点でいえば、私たちは、野党も政
権をめざし、選挙で有権者の審判を受ける立場にある。選挙報道とは有権者に審判の判断材料を提供するもの。したがって、質問状に書いているように、当会
は、審判を受ける政党が判断材料の提供の仕方について口を挟むことには禁欲的であるべきだと考えている。
しかし、現に政権の座についている与党の場合は野党と異質な点がある。出演者の選定など、事細かな点まで口出しするのは厳に慎むべきだ。
政権党からここまで要請することは、法に言う公平・公正のレベルと異なる。別の申し入れが来ているなら伺いたい。文書回答が今のような内容なら意味がない。
NHK:文書で答える。誰から言われたからと言う事ではなく、公正な選挙報道をしなければならないと思っている。
視聴者:次に市民団体や個人からも選挙報道のあり方について意見が寄せられている、だから、特定の政党からの意見の有無を公にしないということなら見当違いだ。
市民は団体であれ、個人であれ、有権者として報道機関から一票を投じるための判断材料を得る、知る権利を持っている。したがって、有権者は報道機関に対して判断材料の提供の仕方について意見があれば伝えるのは当然のこと。政党が注文を付けるのとはわけが違う。
NHK:とにかくいろいろな方から意見が来ているので・・・・
視聴者:政党、特に政権与党からの個別具体的な注文と、有権者からの意見は別物。そういう回答を書かれても私たちの質問に答えたことはならない。この点を会長室によく伝えておいてほしい。
視聴者:韓国のセウォル号事故の対応に批判が起こった中、政府からKBSの社長あてに「報道を控えるように」という要請が来て、それに従おうとした社長方針に抗議して700名の職員がストライキをした。
NHK:はい(承知している)。
視聴者:放送局の報道責任者が職員の集会に来て、政府からの要請を公にした。これはNHKの対応と大きく違い、健全な対応であり、放送の自由を守る姿勢だ。文書の授受をクローズにするなら危険な対応だ。どのような理由で文書をクローズにするのか?
NHK:…、文書で答えるので…。
視聴者:KBSのように政府の干渉を視聴者に公開して市民にも支えられて放送の自主自立を守るのが健全な姿ではないか?
NHK:・・・・・
視聴者:本件の報道に関して、視聴者からの問い合わせは何件位来ているか?
NHK:把握していない。
視聴者:
本件文書が出された数日後、民法の「朝までテレビ」の出演予定者に断りが来たという。NHKはどう対応しているか説明しないと疑念が生まれる。選挙報道で
何を伝えるか何を伝えないかは、常にNHKが選んでいるハズであり、伝えられない場合、視聴者は判断のしようが無くなる。事実は伝えるべきだ。
NHK:個別の件についてのコメントはしない。
視聴者:選挙期間には期限があり、12月11日迄に是非回答を頂きたい。
以上 <2014.12.4 渡辺記>
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(注1)選挙報道「公正に」 自民、テレビ各社に要望文書(asahi)
http://digital.asahi.com/articles/ASGCW5W6VGCWUCVL010.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASGCW5W6VGCWUCVL010
2014年11月28日05時31分
自民党が在京のテレビキー局各社に対し、衆院選の報道にあたって、「公平中立、公正の確保」を求める文書を送っていたことがわかった。街頭インタ
ビューなどでも一方的な意見に偏ることのないよう求めるなど、4項目の具体例を挙げている。識者からは報道の萎縮を懸念する声も上がっている。
文書は萩生田光一・筆頭副幹事長と、福井照・報道局長の連名で20日付。過去の例として、「あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを
事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあった」と指摘。そのうえで、出演者の発言回数や時間などは公平を期す▽ゲスト出演者などの選
定についても公平中立、公正を期す▽テーマについて特定政党出演者への意見の集中などがないようにする▽街頭インタビュー、資料映像などでも一方的な意見
に偏らない――などを「お願い」する内容だ。
在京民放5局は27日、朝日新聞の取材に対し、自民党からこの文書を受け取ったことを明らかにし
た。そのうえで、これまでも選挙の際には自民党だけでなく複数の党から公正中立を求める文書が来たこともあるなどとして、「これまで同様、公正中立な報道
に努める」(TBS)などとコメントした。NHKは「文書が来ているかどうかを含めてお答えしない」とした。
テレビ東京の高橋雄一社長
は27日の定例会見で、「こうした要請はこれまでの選挙でもいろんな党から来ている」と話し、「構えたり、萎縮したりすることはないか」との問いに、「全
然ないですよ」と答えた。一方でキー局の報道幹部は「これまでとの比較は難しいが、過去の『偏向報道』を持ち出すなど圧力も感じる」と話した。
安倍晋三首相は18日、TBSの「ニュース23」に出演した際、景気回復の実感がないという趣旨の街頭インタビューを見て、番組の編成について「皆さん(街の声を)選んでおられると思いますよ」などと発言している。
放送法では「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」などと定めている。放送免許を総務相から与えられている放送局は、公正中立な報道が義務づけられている。
自民党は27日、朝日新聞の取材に対し、「わが党が、報道の自由を尊重するという点は何ら変わりありません。なお、報道各社におかれては、当然ながら公正な報道を行っていただけるものと理解しております」とコメントした。
一方、野党第1党の民主党は取材に対し「与党時も野党時も、このような内容の文書を発出した記録はありません」と回答した。
■具体的な介入は圧力
〈田
島泰彦・上智大教授(メディア法)の話〉今回の文書は中身に問題がある。一般的に公平な報道をお願いするものではない。出演者の発言回数やテーマについて
特定の意見が集中しないように求めるなど、かなり具体的に介入した文書であり、報道が萎縮するような圧力になっている。
もちろん、報道がある政党に対して肩入れをすることはあってはならない。しかし、公平公正というのは問題を足して2で割るという話ではなく、権力を持っている政権の問題を指摘し、時間をかけて課題を議論することは報道としては健全だ。
また、今回の文書を問題視していない放送局の感覚もおかしい。公平中立な報道はメディア自身が主体的に自らで考えるべきことだ。
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放送を語る会・日本ジャーナリスト会議は連名で「総選挙報道に対する要請」アッピールを出しています。
2014 年総選挙に際し、介入、圧力に屈せず、自律的で充実した選挙報道を求めます。
http://www.geocities.jp/hoso_katarukai/141201syuuinsen_mousiire.pdf
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