「シュンひろしまタイムライン」(NHK広島)の「公共放送にあるまじき民族差別扇動の書き込みに抗議し、謝罪と検証を要求する
当会は、NHK広島放送局が開設した「1945ひろしまタイムライン」のひとつ、「シュンひろしまタイムライン」に民族差別を助長する書き込みがあったこと、それについて広島放送局が8月24日に、公表した「6月16日・8月20日のツイートについて」と題する見解について「公共放送にあるまじき民族差別扇動の書き込みに抗議し、謝罪と検証を要求する~『シュンひろしまタイムライン』に関する私たちの見解と質問~」と題する文書(下記)をまとめ、本日、NHK広島放送局/「1945ひろしまタイムライン」担当宛てに発送しました。なお、文書の中で記した3つの質問について、9月15日までに、書面で回答をもらうよう、要望しました。
2020年9月1日
NHK広島放送局「1945ひろしまタイムライン」担当 御中
皆さまにおかれましては、ご多用の毎日をお過ごしのことと存じます。
私たち「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は2007年に、公共放送における視聴者の権利拡大と、政治権力からの自立を求め、NHKがより優れた番組を提供するよう監視・激励することを目的に設立した視聴者団体です。
当会は、今回、貴局が開設された「1945ひろしまタイムライン」のひとつ、「シュンひろしまタイムライン」に民族差別を助長する書き込みがあったこと、それについて貴局が8月24日に、「6月16日・8月20日のツイートについて」と題する見解を発表されたことについて議論をし、「公共放送にあるまじき民族差別扇動の書き込みに抗議し、謝罪と検証を要求する~「シュンひろしまタイムライン」に関する私たちの見解と質問~」と題する文書をまとめましたので、同封いたします。
これをご一読の上、文中に記しました3つの質問についての貴局のご回答を9月15日までに、下記宛て(略)に文書でお送りくださるよう、お願いいたします。以上
NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
共同代表 醍醐 聰
********************
(以下添付文書)
2020年9月1日
NHK広島放送局「1945ひろしまタイムライン」担当 御中
公共放送にあるまじき民族差別扇動の書き込みに抗議し、謝罪と検証を要求する~「シュンひろしまタイムライン」に関する私たちの見解と質問~
NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
問題の経過
NHK広島放送局(以下、「NHK広島」と略)が開設した「1945ひろしまタイムライン」のひとつ、「シュンひろしまタイムライン」に次のような書き込みがされたことに疑問、批判が広がっています。
「朝鮮人の奴らは『この戦争はすぐに終わるヨ』『日本は負けるヨ』と平気で言い放つ。思わずかっとなり、怒りに任せて言い返そうとしたが、多勢に無勢」(1945年6月16日)
「朝鮮人だ!!大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる!」
「『俺たちは戦勝国民だ!敗戦国は出て行け!』圧倒的な威力と迫力。怒鳴りながら超満員の列車の窓という窓を叩き割っていく」(1945年8月20日)
これについて、NHK広島は8月24日、「6月16日・8月20日のツイートについて」と題する見解を発表し、「『差別を助長しているのではないか』というご批判も多数いただきました」と断ったうえで、「戦争の時代に中学1年生が見聞きしたことを、十分な説明なしに発信することで、現代の視聴者のみなさまがどのように受け止めるかについて配慮が不十分だった」、「手記を提供してくれた方が、1945年当時に抱いた思いを、現在も持っているかのような誤解を生み」と謝罪しました。
しかし、私たちはNHK広島のこのような謝罪で問題が一件落着したとは考えません。
私たちの見解
1.差別を助長したのではないかという批判は、書き込みの内容に照らせば、在日朝鮮人への差別と受けとるのが自然ですが、NHK広島の謝罪文には、差別を受けた当事者である在日朝鮮人への謝罪が一言もありません。
また、それ以前に、「誰に対する」差別に当たるのかについての明確な認識が示されていません。これでは、「お詫び」の実が乏しいと言わざるを得ません。
私たちはNHK広島の責任のもとに制作された、「シュンひろしまタイムライン」が、公共放送にあるまじき在日朝鮮人への差別と憎悪を扇動する書き込みをしたことに厳重に抗議し、真摯な謝罪をするよう求めます。
2.NHK広島は8月24日に公表した見解の中で、「今後は被爆体験の継承というプロジェクト本来の目的を的確に果たしていくため、必要に応じて注釈をつける、出典を明らかにするなどの対応」をとるとしています。
しかし、そもそも、「1945ひろしまタイムライン」が、現代の若い世代に「戦争や原爆について、リアリティをもって考えていただく取り組みです」というのなら、広島の地での戦争や被爆体験をリアルに記録した日記、手記、歌集、文献は数多くあります。また、原爆投下当時、広島で被爆した在日朝鮮人の実相、被爆韓国人のその後(被爆者援護をめぐる在日朝鮮人への差別など)を調査した資料(注1)、研究文献もあります。
そうした中で、「シュンひろしまタイムライン」が、当時の軍国主義教育の下で、軍国少年の精神が染みつき(注2)、担任教員の「検閲」も受けた新井俊一郎氏の日記をあえて題材に選んだ理由はどこにあったのか、今後も新井俊一郎氏の日記を題材として使い続けるのか、再考する必要があると私たちは考えます。
質 問
1.上記「私たちの見解」の1で述べた点について、NHK広島は、「シュンひろしまタイムライン」の6月16日、8月20日の書き込みが在日朝鮮人に対する差別を助長するものだったと認識されているのかどうか、明確にお答え下さい。
2.上記「私たちの見解」の2で述べた点に関して、NHK広島は、新井俊一郎氏の日記を「シュンタイムライン」の題材として今後も使い続けるのか、より適切と考えられる題材に変更するよう見直す意向があるのかについて、お考えをお聞かせ下さい。
3.NHK広島は8月24日に発表された見解の中で、「今後は被爆体験の継承というプロジェクト本来の目的を的確に果たしていくため、必要に応じて注釈をつける、出典を明らかにするなどの対応」をとるとしています。
しかし、今後と言わず、元の日記にはない文章を6月16日、8月20日の「シュンひろしまタイムライン」に書き込んだ出典、あるいは経緯(誰かの後付けの判断なら、誰の判断か)を明確にされるよう、求めます。
以上3つの質問に対するNHK広島としてのご回答を、文書で、9月15日までに、別紙に記載した宛先へ郵送くださるよう、お願いします。 以 上
(注1)
まとまった代表的な文献として、市場淳子『ヒロシマを持ちかえった人々~「韓国の広島」はなぜ生まれたのか~』2000年、凱風社、があります。
(注2)
例えば、新井俊一郎氏の日記には次のような記述があります。
「4月10日(火) 雨、時々曇り
反省録『米英撃滅日誌』と名付けることとする。なんと言ふ良い名であらうか。
さうだ、いま我々日本国民の進んで行くべき道はただ一つ、米英撃滅あるのみである。自分は今まで日記をつけてゐたが、これから米英撃滅日誌と名を変へて新発足するのである。今までの日記の書き方は大分字が乱雑であった。しかれども今や自分は天下の附中生となったのである。その意味から言っても、立派に附中生らしく何事も行はなくてはならぬ。もう我々は国民学校の児童ではなくなったのである。立派な日本帝国の学徒となったのである。
本日も修身公民の教官のお話にもあった。我々は入学の喜びを心の底にしまひ込み、なほ 一層、勉学に奮闘すべきである。今度、良き帝国の一臣民とし、一人の防人(サキモリ)としての練習を積む教練といふものも出て来た。実に自分達に掛かってゐる所の帝国の信頼と帝国の運命とが、今の戦局、殊に沖縄の激戦を考へて見ると、非常に重大であるといふ事が分かって来るのである。東京などのやうな大都市は、殆ど連日のごとく敵の爆撃下にさらされてゐる。それに今度のB29の来襲の時、敵は戦闘機を連れて来て居るのである。つまりそれは、硫黄島の飛行場を敵が使用してゐるのだ。無念だ、残念だ。ただ米英撃滅あるのみ。今この日誌の第一頁を、沖縄方面あての特別放送を聞きつつ記す。」
「5月3日(木) 晴
本日発表あり。遂に独総統ヒトラー氏は、名誉の戦死を遂げられたさうである。あの祖国を守る、愛する祖国のために一生を捧げて来たヒトラー総統は、遂に自分の生命を祖国のために捧げたのである。とうとう我が同盟国の二総統は、生命を世界平和のため、祖国のため、日本と同じ道を歩み来て、その生命をも捧げたのである。我々は二総統のため、本当に哀悼の意を表す。」
*******************
「シュン」の日記主、NHKに不信感 認識に食い違い:朝日新聞デジタル https://digital.asahi.com/articles/ASN956TL5N91PITB01J.html?pn=9
「シュン」の日記主、NHKに不信感 認識に食い違い
もしも75年前にSNSがあったら――。実在の人物の日記をもとに、広島への原爆投下を挟んだ日々の出来事や思いを、ツイッターに連日投稿するNHK広島放送局の企画「1945ひろしまタイムライン」がこの夏、批判を浴びた。「朝鮮人の奴(やつ)ら」などの記述が「差別を助長する」という指摘だ。日記を提供した被爆者が取材に応じ、NHKとの間で企画内容についての認識に食い違いがあったことがわかった。若い世代に戦争体験を届けようという試みだが、難しさも浮き彫りになった。(宮崎園子)
投稿のもととなる日記の主は、広島で被爆した3人の市民。その中で唯一健在なのが広島市南区の新井俊一郎さん(88)だ。
新井さんをモデルにした「シュン」が8月20日、こんな投稿をした。
《朝鮮人だ!! 大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる!》《怒鳴りながら超満員の列車の窓という窓を叩(たた)き割っていく》
ネット上では「『朝鮮人』への敵意を煽(あお)っている」「ヘイトツイートだ」などと批判され、NHKがホームページで公開している新井さんの日記原文に同様の記述がないことから「このような創作は許せない」という指摘もあり、投稿は中断された。
NHKと新井さんのやり取り
75年前の実際の日記は、8月17~27日が空白になっている。ただ、新井さんが2009年に出版した手記には、8月18~21日に家族で広島から両親の故郷・秩父(埼玉県)へ移動する途中に大阪の駅で見た光景として、似た記述がある。
NHKによると、投稿は日記だけでなく、手記や本人への取材なども参考にしたという。だが、企画についての新井さんの当初の認識は違うものだった。
「シュン」の投稿が始まったのは3月26日。新井さんは事前にNHKに依頼されて、投稿内容を考える高校生ら10代の5人に、日記の背景などを説明した。しかし、NHK側からツイッターの特性などについての詳しい説明はなかった。番組の中で当時の日記が紹介され、子どもたちが感想などを述べ合うと考えていたという。
ところが4月3日、企画を紹介する番組を見て、初めてツイッターへの投稿内容を知り、驚いた。
NHKの担当者にただすと「『日記を原作として、子どもたちと一緒に創作をしている』」と言われたという。「私は激怒しました。日記の偽造だと」
新井さんはNHK側と話し合い、こんな条件を出した。「75年前の軍国少年の日記だと子どもたちにしっかり認識させた上で、子どもたちの言葉で書くのならば認めます。NHKの責任でやってください」
記述になかった「奴ら」という言葉
だが、ツイートは「炎上」した。8月20日だけではなく、6月16日の投稿も批判を浴びた。《朝鮮人の奴らは「この戦争はすぐに終わるヨ」「日本は負けるヨ」と平気で言い放つ》
新井さんの手記には似た内容があるが、書きぶりは異なる。《泥まみれの工事現場で彼ら朝鮮人たちは、平気で言い放っておりました。「この戦争はすぐに終わるヨ」「日本は負けるヨ」》
新井さんの日記や手記には「奴ら」という言葉は出てこない。「朝鮮人と論争になったとか、侮蔑的な思いで眺めたとか、そういう話も一切していません」
がんの治療で入院中の新井さんは、2010年から広島平和記念資料館などで証言活動を続けてきた。今回の企画も、戦争や原爆の現実が若い世代に伝わればと思って参加したという。
「NHKのやり方は意味があると思う。でも、まるで現在進行中の場面であるかのごとく昔の物語を追いかけるのは危険。(投稿内容を)責任を持って慎重にチェックし、出す出さないの判断をするのは、NHKの責任のはずです」
NHK「配慮が不十分だった」
NHK広島放送局は8月24日、朝日新聞の取材に対して、「時代背景の説明などの注釈をつけずに発信したことは、配慮が不十分だったと考えています。今後、必要に応じて注釈をつけるなど、対応することにしております」と回答。同日、ホームページでも「現代の視聴者がどのように受け止めるか配慮が不十分だった」などとして新井さんら関係者に謝罪した。
「奴ら」という記述が生まれた経緯についても尋ねたが、同局は「現代風に表現した」と説明するにとどまった。また、「日本史の専門家や、SNSやメディアリテラシーに精通した複数の専門家に必要に応じて相談している」としたが、専門家の名前は明らかにしなかった。「シュン」の投稿は、今月2日に再開された。
津田大介さんの話
ネットメディアに詳しいジャーナリストの津田大介さんに「1945ひろしまタイムライン」の問題について話を聞いた。主な内容は次の通り。
◇ ◇
NHKは、ツイッターの炎上について「日記をもとにしている」と、(モデルとなる日記を書いた被爆者の)新井俊一郎さんに責任を投げるような形になっているが、それは大問題。NHKに落ち度があったことは間違いないのではないか。
歴史認識と、それに根付いた現代日本にも続く在日コリアンに対する差別に深く結びついている問題だからこそ、歴史の専門家からきちんと考証を受けなければならない。
僕だったら企画についてどうアドバイスしたか。ツイッターの場合は(関連するツイートをつなげて投稿する)スレッド機能がある。誤解を招くような表現があったら、それに対して「当時はこうだったけれど」と注釈をスレッドでつける。ツイッターは140字の文字制限があるが、スレッドでつければ表示できる。ある程度誤解というのを防ぐことができる。
ただ、そもそも論がある。日記をツイッターに流していくという企画自体が良かったのか。ツイッターは、何かのテーマで連続してツイートしても、その複数のツイートを全部読めば理解できることでも、情報を受信した側は一個だけリツイートする。文面が寸断されやすい。デリケートな問題だからこそ、注釈とか丁寧な文脈と一緒に届けることが大事だ。
ツイッターは、文脈が寸断され、意図と違う形で流れていくプラットフォームなのだから、必要以上に慎重に議論を重ねてやるべきだったというのが僕の考えだ。ツイッターで「バズる」(話題になる)ことと、誤解が誤解のまま拡散していくのは表裏一体。NHKはその危険性について想像力が及ばなかったのではないか。
若者に間口を広げる戦争報道もやるべきだし、こういうチャレンジ自体は評価した方が良い部分もあるが、「若者に伝えよう」「間口を広げよう」ばかりが先行すると、今回のようなことが起こる。大切なのは、どっちにしても中身だ。
新井俊一郎さんは存命だ。ということは、確認ができる。「元ネタ」として使わせていただく日記があるのなら、それをどう伝えるか、なぜ若い人に伝える意味があるのか、番組制作者が丁寧にコミュニケーションをとる必要があった。そこが十分だったとは思えない。
差別の肯定ではなく、当時の時代の空気感を伝える意味でやっているのだろう。だが、ツイッターは140字の字面だけで判断してしまうし、苛烈(かれつ)なヘイトスピーチが野放しにされている場所でもある。NHKが望まない反応を呼び込むことは必至だ。だから、そこについてちゃんと抑止するものが必要だった。「奴(やつ)ら」みたいな演出がなぜ必要だったのか、十分に伝わるような説明をしないといけない。そこが理論武装できていないなら、やるべきではなかった。
一番大事なのは近現代史の専門家。そこがボタンの掛け違いだったのでは。ネットも近現代史も分かった人とディスカッションして、疑念点を指摘してもらった上で、合議制でやるべきだった。
問題となったツイートをそのまま残すなら、スレッドで意図を説明するのがいい。ただ、これだけ誤解が加速し、今もそこ(スレッド)に差別を肯定するようなヘイトスピーチがいっぱい連なったままだ。現実として、日本にたくさん住んでいる在日コリアンの人たちに対する加害がある。意図していなくても、結果的にNHKが加害者になっている。ツイッター社が(ヘイトスピーチを削除するという)対応をしないなら、NHKがツイートを削除し、ホームページで経過と意図、何が問題だったかを説明をするべきだろう。
新井俊一郎さんの一問一答
モデルとなる日記を書いた被爆者の新井俊一郎さんとの詳しいやりとりは次の通り。
――「大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が列車に乗り込んでくる」という8月20日のツイートが問題になりました。「こういうツイートをします」という事前確認は。
全くありません。第一、この言葉は、私の日記のどこにもありません。私の手記やNHKによるインタビューでは、似たような表現をしています。75年前の私のこととして。
――「朝鮮人の奴(やつ)らは『この戦争はすぐに終わるヨ』『日本は負けるヨ』と平気で言い放つ」という6月16日のツイートも問題となっています。
朝鮮人の「奴ら」とかは一切話をしておりません。「軍国少年」シュンちゃんの日記だから、子どもたち(投稿を担当した高校生たち)がそういう表現で書いたのでしょうが、朝鮮人と論争になったとか、侮蔑的な思いで眺めたとか、そういう話も一切していません。いわんや、この言葉をネットに載せるなんていうことは、事前の承諾がないんですから。
私の友人が「ネットが炎上しているらしいぞ」と連絡してきたんです。私からNHK側に「なんか大変なことになっているが、どうなってるんだ」と問い合わせて、初めて反応がありました。
――投稿を担当する高校生たちと新井さんが日記について話し合う「ワークショップ」は、何回くらいありましたか。
2月に初めて彼らと対面し、直接対面は2、3回。それからコロナが問題になってきたので、画面を通じての(オンラインでの)ミーティングになった。画面を通じての話し合いは2、3回はあったでしょう。
――基本的に1945年の日記と同じ流れで、2020年の同じ日に毎日つぶやく。一つ一つのツイートの、新井さんによるチェック作業は。
そんなことしていたら私、(自分の)仕事ができません。初めから「そんなことはできない。NHKが責任持ってやって」と言っているわけです。4月に最初の番組を放送した途端、内容に疑問を持ったので、「新井の日記をシュン日記として出すのは、私の日記の偽造では」と言った。すると担当者が、「新井さんの日記を原作として、子どもたちと一緒に創作をしている」と言った。私はそんなことを許した覚えは一切ないと激怒しました。すると担当者は、「創作」という言葉は使いませんでしたが、「つぶやきという形で、子どもたちの思いを書き加えたものを投稿させてもらいたい」と言い、私は認めたんです。歩み寄ろうと。「75年前の軍国少年の日記だと子どもたちにしっかり認識させた上で、子どもたちの言葉で書くのならば認めます。NHKの責任でやってください」と。これは私の責任だと思っています。あそこで歩み寄っていなければこんな事態は招いていません。
――「シュン」のアカウントの紹介文には、「75年前の中学1年生、新井俊一郎さんの日記などをもとに、今の広島の10代が想像をふくらませ、シュンとして伝えます」とあります。新井俊一郎の名前がある。
そうなんですよ。だから私の同級生はみんな「お前あんな日記書いてたんか」って。
――75年前は軍国少年だった。それを2020年にありのまま伝えるのはなかなか難しい。
はい。私は、私の日記についての子どもたちの感想とか、評価とかいうことをやっていく番組だと思っていた。
――ツイッターについてきちんと理解する必要がある。これまでのワークショップで、ツイッターなどSNSの専門家の方が介在したことはあったか。
聞いていません。SNS関係、私も素人で分かりにくいから、説明を聞いたこともなければ、SNSの専門家を見たことももちろんありません。
――ワークショップに参加したのは、新井さん、高校生たち、そしてNHKの人、と。
最初のときは、(「シュン」と同様に実在の人物の日記をもとにツイッターに投稿する)「一郎」さんや「やすこ」さん関係の大人の人も何人かいて紹介されましたよ。顔合わせだったんでしょうね。印象的なのは、子どもたち(高校生たち)と昔の話をしていたときに、ヒトラー、ムソリーニが死んだとき、私が日記の中で哀悼の意を述べているという話になった。そしたら担当者が「今でもヒトラーを尊敬していますか」と。そういうふうに思われてるんかなあと思ってがくぜんとした。
――注釈なしに投稿した点は、NHKも「配慮が不十分だった」としている。
もう一つは、現在進行形で出来事を追っているんですね。私に対して「広島に行っちゃあいけないよ」と声をかける。「危ない」と。そのまま追体験しているようになる。そこに「朝鮮人」って。
NHKは「柱を立てた」
――新井さんはかつて、地元民放テレビ局に勤めておられました。
私もテレビ局でドラマ制作をしていましたから分かるんですが、「柱を立てる」という手法ではないでしょうか。今回の企画は劇作家の方が監修しているそうです。「柱を立てる」というのは業界用語で、一番最初に印象的な言葉を置くんです。その後、関連することをゆっくり拡張しながらドラマを作っていく。朝鮮人といったらみんな「?」とくるでしょう。後半になればなるほど、すさまじい状況を描いていますよね。子どもたちがすんなりこんなことを書くかな。大人の手が入ったと思いました。
――今回のことが起きた原因は何だと思いますか。
半分は、私が歩み寄ったがために問題を招いた。残りは、NHKが責任をもって番組を遂行していくと言った、その責任を文字どおり実行しなかったことにあります。子どもたちがツイートとして原稿を書くのはものすごく危険なことですよ。危険なことを承知の上で、必ずチェックをして慎重に、出すか出さないかを判断するということを含めてすべて責任を持つのがNHKのはず。スルーして出てしまった責任がある。
75年前の戦争体験を持った人間、あの当時の状況が分かってる人間だったら、こんなこと絶対にするはずがない。「厳重に子どもたちを監督指導します」と言われ、歩み寄った私も甘かったと思います。
――75年前の日記を今のツイッターに載せるときには、やはり工夫が必要だったのでは。
ディレクターだったらそんなことは当然考えるべきです。使う使わないか、使うならどう使うか。そこまでが才覚です。
――普段、戦争や原爆の報道など見向きもしないであろう人たちも、シュンちゃんのツイッターを追い続けた。良い影響はたくさんあった。エールも実際多い。
NHKのやり方は意味があると思います。でも、まるで現在進行中の場面であるかのごとく昔の物語を追いかけるのは危険。(投稿内容を)責任を持って慎重にチェックし、出す出さないの判断をするのは、NHKの責任のはずです。無神経にやったNHKさんが大きな隙を見せたなと思います。
――1945年当時と今では、75年の価値観や倫理観の隔たりがある。当時多くの人たちが同じように軍国少年、軍国少女だった。
取り上げるつもりならば取り上げるように、すべてについて練り上げた作品を出さなければ。危険だということは分かっているはずなのに、そこに思い至っていない。
それからもう一つ言いたいのが、今回の番組は、パソコンやSNSを使いこなせる人たちにはきっと面白いが、使いこなせない私たちのような老人たちにはわからない。最初から、パソコンを使いこなせない年齢層を除外して番組を作っている。全国あまねく、というNHKの本来の任務からかけ離れている。一部の人間しか理解できない番組を作ってよろしいのか。若者迎合がありありとみえる。
――迎合ですか。
若者に理解してもらうために、若者に迎合しているとしか考えられない。使っている言葉、ツイートやブログとかの言葉はそれじゃないですか。
私の日記には「行軍」という言葉がでてくる。行軍して水源地まで行き、そこで弁当を食べたと日記に書いているんだけど、子どもたちは「行軍」ということより、水源地に行って満開の下でお弁当食べておいしかった、気持ちよかったということに焦点をあてて書いている。当時私たちは、行軍して一糸乱れぬ歩調をそろえて行って、ほっとして弁当を開いた。見方がまるっきり違う。13歳の軍国少年が肩ひじ張って頑張ってる姿を想像してもらおうと思ったのですが。時代感覚が分からない。(宮崎園子)
***********************
NHK原爆企画ツイートが炎上 問題の本質は | 週刊金曜日オンライン
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2020/09/08/antena-790/
********************************************
NHK、ひろしまタイムライン過去投稿「削除せず移設」2020年10月1日 22時46分
********************************
NHK、批判受けた投稿をHPに転載し残す ひろしまタイムラインの「朝鮮人」記述
毎日新聞2020年10月2日 21時07分(最終更新 10月2日 21時08分)
NHK広島放送局がツイッターで展開している「1945ひろしまタイムライン」上で「朝鮮人」を巡る記述が差別的だと批判されている問題で、同局は2日、問題ツイートを含む8月までの投稿を削除した上で同局のホームページ(HP)上に転載した。「投稿を残しておくのは朝鮮人への差別を助長する」とツイートの削除を求める声が高まるなか、場所を変えてそのまま残したことについて同局は「一連のツイートを読みやすくするために元々予定していた」と話している。
問題となったのは「朝鮮人だ‼」「(電車に)座っていた先客を放り出し、割れた窓から仲間の全員がなだれ込んできた!」などのツイート。HPには戦時中になぜ多くの朝鮮半島出身者が日本に暮らしていたのかの簡単な注釈が初めて加えられたが、当時から今に続く朝鮮人への差別意識についての説明はない。ネット上では「差別的な投稿をまた発信している」などと批判の声があがっている。【南茂芽育】
https://mainichi.jp/articles/20201002/k00/00m/040/274000c
NHK広島の差別的ツイート 朝鮮総連も人権救済申し立て「恐怖と精神的苦痛」 - 毎日新聞