「N国党」の言動とNHK受信料制度等に関する当会の見解
「NHKから国民を守る党」の社会の良識から逸脱した同党の挙動は別として、当会は、この機会に、NHKをめぐるN国党の主張を吟味し、批判すると同時に、NHK受信料制度に関する当会の見解・提言を明らかにしておく必要があると考え、「『NHKから国民を守る党』の言動とNHK受信料制度等に関する当会の見解」(PDFダウンロード)をまとめました。
●この構成と要旨は次のとおりです。
<NHKの受信料制度等に関する当会の見解と提言>
(1)行政用語の誤った準用である「特殊な負担金」を金科玉条に振り回す愚を根本から改めるべき
ここでは、冒頭で、NHKに対し、民間営利事業者への集金委託を通じて、威嚇的な受信料取り立てを行っているのを直ちに止めるよう、再度、要求しています。
次いで、NHKが旧郵政省時代に設置された一調査会の答申で使われたに過ぎない「特殊な負担金」という用語の由来を確かめ、行政用語として使われる片務的な「負担金」を、双務契約に基づくはずのNHKの受信料の定義に誤用している実態を指摘し、こうした用語を濫用してNHKが、
① 受信料の一律定額制を擁護していること、
② NHKの国策報道化に受信料支払い保留で抗弁する視聴者運動を否認し続ける姿勢を厳しく批判しています。
(2)受信料体系に従量制を導入する当会の試論的提言
ここでは、さまざまな搭載機能の一つとして、NHK視聴機能を備えた機器を持っているというだけで、NHKの番組をほとんど視聴しない人にまで受信料課金の網をかけるのは、「送りつけ商法」と非難されてもやむをえない面があると考え、こうした不条理を根本的に改めるには、端末機器のいかんを問わず現行の一律定額制を改め、視聴者の番組選好を受信料に一定程度、反映させる体系へ受信料制度を転換させる以外にないと当会は判断し、現在、NHKのハイビジョンが使用している12のセグメントを、例えば6つのセグメントに再編して、標準画質で3チャンネル同時放送をする、視聴者は自分の選好に合わせて見たいチャンネルを登録し、それを従量料金として定額部分に上乗せするという仕組みを試行案として提案しました。
(3)NHKは視聴者の意見、議論に真摯に応答する責務を果たすべき
ここでは昨今、NHKが当会ほか多くの視聴者から番組について寄せられた意見に対し、NHKの編集権を盾に応答を拒んでいる実態を取りあげ、「放送法」第27条、「NHK放送ガイドライン」17項に明確に違反するこうした応答拒否を直ちに根絶するよう、求めています。
●視聴者コミュニニティでは、渋谷のNHKに出向いて視聴者部の副部長二名と約1時間面談し、当会の見解文書(4ページ)について説明しました。以下面談の記録。
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「NHKから国民を守る党」の言動とNHKの受信料制度等に関する当会の見解
(NHKへの手交の報告)
日 時:2019年7月31日 10時30分~11時20分
手交した見解の宛先
① NHK経営委員会 委員長 石原 進 様、 NHK経営委員 各位
② NHK会長 上田良一 様、 NHK 理 事 各位
NHK:広報局視聴者部 藤田浩之 副部長、 七尾秀明 副部長
視聴者コミュニニティ: 醍醐 聰 共同代表、 渡辺 力 運営委員
≪面談について≫
見解のポイントは、2点で①N国党に対する見解、➁受信料制度はこれでよいのか? であり、文書に沿って約20分説明。
会:(総務省「公共放送を巡る現状と課題について」平成28年6月、p. 4にもとづいて質疑)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000424431.pdf
NHKはこの資料にある「特殊な負担金」という言葉を使って受信料を説明するのが慣例になっている。しかし、資料にもあるように、「負担金」は国又は地方公共団体が特定の事業を行う場合に採用される賦課金のこと。行政機関でないNHKの受信料の説明に、このような行政上の用語を準用するのは間違っている。それともNHKは国家機関に準じると言う認識があるのか?
NHK:資料にもあるように辞典に出ているのを引用しただけではないか?
会:出所はそうだが、このような定義の用語をNHKは裁判の場でも何度も引用しているのだから、NHKもコミットしていることになる。
NHK:「負担金」という言葉でなければどんな言葉が良いのか?
会:言葉の問題というより、内容の問題。現実の行政事務に「負担金」が登場するのは、水道事業の「加入負担金」や旧電電公社が採用した「設備負担金」(その後、「施設設置負担金」と改称)など。
公益的事業が行う施設設置のうち、特定の加入者や住民にのみ利益が帰属する場合(回線を共用部分から先の屋内に引く場合など)に要する経費の一部を加入時に一時金として徴収する場合が多い。
このような意味の負担金を、毎年、継続的に徴収される双務的な受信料の説明に用いるのは論外。
NHK:(応答なし)
会:資料では「負担金」に関する内閣法制局長官の国会答弁が紹介されているが、「放送法」のどこにも出てこない「負担金」の性格について、内閣法制局長官に答弁する資格(役所がよく使う言葉でいうと「有権的解釈権」)があるのか?
NHK:国会でこう答弁したということではないか?「有権的解釈権」という言葉は知らない。
会:次に昨日、NHKがHPに掲載した告知文書について
https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/pdf/jushinryoandkoukyouhousou.pdf
① この文書はN国党を念頭にしたものか?
NHK:違う。
会:②当会も例えば、籾井前会長が辞任するまで受信料の支払いを止めるよう、呼びかけをした。文中の「受信料を払わなくてもいい」と発言する人たちに、私たちの会も含まれるか?
NHK:(営業局から)情報がきていないので答えられない。
会:③文中、「自主自律を堅持しながら」とあるが、本当にそう確認しているのか?
NHK:(応答なし)
会:④文中、「みなさまの不公平感を解消していくためにも」とあるが、以前と違って、昨今は「周りが払っていないから自分も」という声はほとんど聞こえて来ない。多いのは番組や受信料の威嚇的な取り立てに対する批判、不満、怒り。視聴者間の不公平を問題視するのは問題のすり替えではないか?
NHK:すりかえ、とは?
会:<NHKと視聴者の間の問題>を<視聴者と視聴者の間の問題>にすり替えているという意味、
会:文中、「『受信料を支払わなくてもよい』と公然と言うことは、法律違反を勧めることになり」とある。まるで受信料の支払いは義務化されているかの言い方だが、どこに、そのような法的裏付けがあるのか?
NHK:設備を持っている人は契約する義務があるということ。
会:違う。「放送法」は、受信契約締結は義務化しているが、受信料支払いは義務化されていない。戦後、3回、支払いを義務化する放送法改訂の試みがあったがいずれも不成立で終わっている。
何人かの歴代会長が、支払いも義務化して、2段階の仕組みを1段階に直すよう、求めてきたのは、今現在、受信料の支払いが義務化されていない証拠。
NHK:しかし、NHKは受信契約にもとづいて支払いを請求している。
会:請求するなとは言っていない。放送法で義務化されていないものを「法律違反」と言うのはおかしいと言っているのだ。
国会の付帯決議で、威嚇的な集金を改めるよう求められたのをご存知か?
NHK:(うなずく)
会:受信料=片務的料金という決めつけを改め、「特殊な負担金」論を振り回して、受信料がまるで税金かのように「特権的、徴税的な心理」で威嚇的な取り立てする現実を断ち切ることが受信料改革に欠かせない。
これらの問題を会として議論し、改めて伺うかもしれないのでその際にはよろしく! 以上
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2019年7月31日
NHK経営委員会委員長 石原 進 様
同 経営委員会委員各位
NHK 会 長 上田良一 様
同 理事各位
「NHKから国民を守る党」の言動とNHK受信料制度等に関する当会の見解
NHK を監視・激励する視聴者コミュニティ
共同代表 湯山哲守・醍醐 聰
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/
先の参議院選挙で「NHKから国民を守る党」(以下、「N国党」と略す)が1議席を獲得し、選挙区でも152万票(得票率3.02%)を獲得して政党要件を満たしたことから、同党の主張に関心が集まっている。この機会に、N国党の主張ならびにNHK受信料制度に関する当会の見解・提言を明らかにしておく。
(注)当会は、NHKがより優れた番組を提供するよう監視・激励すること、公共放送における視聴者の権利拡大と、政治権力からの自立を求める活動を進めることを目的として、2007年2月8日に「NHK受信料支払い停止運動の会」の後継団体として設立した視聴者団体である。
N国党の主張に関する当会の見解
N国党の主たる主張は「NHKの放送を見ていないのに受信料を払わされる人」と「NHKの放送を見ているのに受信料を払わない人」の不公平を「スクランブル化」の採用で解消するという点にある。この場合、同党が主張する「スクランブル化」とは「NHKだけ視聴できないテレビを希望する家庭には、NHKの電波を供給しない条例を制定する」というものである。
しかし、当会はNHKの視聴者をこのように対立的に二分すること自体に反対する。なぜなら,NHKが公共放送として政治権力から自立し、民主主義の発達、視聴者の参政に資する情報を提供するには税金でも営利企業の広告料でもなく、視聴者の受信料で運営されることが必須の要件である。となれば、受信契約者はNHKの放送を見る、見ないにかかわらず、一定の受信料を定額制で負担することを否定するわけにはいかない。
とはいっても、現状のNHKの放送、特に報道番組の多くは、公共放送としての使命に背く国策放送同然の状況になりはてている。このような状況では視聴者が、双務契約のもとで視聴者に認められてしかるべき「同時履行の抗弁権」を行使して、NHKが公共放送にふさわしい番組を放送しているという信頼を回復するまで受信料の支払いを保留するのは道理にかなっている。
そのように考えると、NHKの番組を見ていながら受信料を払わない(支払いを保留している)人々を、N国党が主張するように無前提に問題視するのは筋違いである。
また、NHKは全国あまねく受信できる基幹放送を行う公共放送としての使命(例えば災害放送や国際放送)を担っている(「放送法」第15条、第30条)。さらに、有権者の参政(投票行動だけでなく、日常の政治的意思表示にも)等に寄与する情報を提供することを通じて民主主義の発達に資する放送を行う使命を担っている。こうした役割を担うNHKの放送を受信する機会を捨てる選択を法律、条令で認めるよう要求することはとうてい承服できない。
また、見たい番組だけを見ただけ受信料を負担するとなれば、NHKの受信料に定額部分は事実上なくなり、NHKの財政基盤は根底から不安定なものになるから、公共放送を税金でも営利企業の広告料でもなく、受信料で維持するという観点から、賛同できない。
なお、伝えられるところではN国党は、憲法9条への加憲を中心とした改憲を目指す政権与党に対し、スクランブル化に応じることを条件に改憲に賛成する意向を伝えているとのことであるが、受信料制度を、有権者の過半が支持しない改憲との取引材料に使うのは不見識も甚だしく、撤回を要求する。
とはいえ、N国党が単純な「スクランブル化」や市民権の拡大を意図しての露骨な「改憲に賛成する意向」を主張しているにもかかわらず、一定の支持票と議席を獲得できた背景には、NHKの強引な受信料徴収への怒りや民放に比してあまりに巨大すぎる財政規模への視聴者の危惧があるものと考えられる。そこで以下に、受信料のあり方とNHKの視聴者への対応についての当会の見解と提言を述べておきたい。
NHKの受信料制度等に関する当会の見解と提言
(1)行政用語の誤った準用である「特殊な負担金」を金科玉条に振り回す愚を根本から改めるべき
上記のような理由で、当会はN国党が主張するNHK受信料のスクランブル化には強く反対するが、NHKの現行の受信料制度を丸ごと肯定するわけでは決してない。むしろ、一律定額制のもとで、NHKがNHKの国策放送局化に対する抗弁として受信料の支払いを拒否・停止している契約者を含む視聴者に対して、簡易裁判所を介した民事督促をちらつかせ、民間委託事業者を使って威嚇的な取り立てを行っているのは公共放送として恥ずべきことである。
そもそも現行の一律定額制は旧郵政省内に設置された一調査会が答申の中で用いた用語に過ぎず、行政用語として用いられる「負担金」=賦課の発想を、双務契約であるはずの公共放送に持ち込むのは法の誤った準用である。現に、民放・契約法学者の中に、受信料の支払い義務化に異議を唱える文脈の中で、次のような見解を表明した研究者がいる。
「思うに、国民的支援にささえられた番組編成、経営基盤(財源)の自主独立性を堅持し、国民の総意に沿ったサ-ビスの提供に努めうる諸環境を存続させるためにも、NHKに完全な特権的、徴税的な心理を育成する方向には絶対に進むべきではなく、そのためにもNHKと受信者が受信契約の締結という行為を介して形成され、育成された相互信頼関係はその範囲で価値あるものであり、・・・・」
(河野弘矩「NHK受信契約」遠藤浩・林良平・水本浩監修『現代契約法大系』第7巻、サ-ビス・労務供給契約、1984年、有斐閣、241ペ-ジ)
このような見解に照らしていうと、受信料=「特殊な負担金」論は、NHKの受信料を税金に準じたものに変質させ、「NHKに完全な特権的、徴税的な心理を育成する」論である。こうした俗論を断ち切ることがNHKの受信料改革に欠かせない第一歩である。
また、「特殊な負担金」なる用語は内容においても、「NHKの業務を維持・運営するための」という抽象的形容詞を使ったにすぎず、受信料のあるべき体系を示したものではない。にもかかわらず、歴代の放送行政諸官庁が、まるでNHKの後見人かのように、このような抽象的国語的修辞を金科玉条のように振り回して、受信料=一律定額制の賦課料金と独断的に解釈し、かつ、この用語を以て、受信料=片務的料金と決めてかかり、視聴者の抗弁権というべき受信料支払い保留を否認してきた害悪は計り知れないほど重い。
(参考)「特殊な負担金」論については、総務省「公共放送を巡る現状と課題」2016年6月、4ページを参照。http://www.soumu.go.jp/main_content/000424431.pdf
(2)受信料体系に従量制を導入する当会の試論的提言
NHKはこの先、NHKの番組を視聴できる機能を備えた種々の端末機器を保有する人々にまで課金を広げることにしている。しかし、さまざまな搭載機能の一つとして、こうした機能を備えた機器を持っているというだけで、NHKの番組をほとんど視聴しない人にまで受信料課金の網をかけるのは、一律定額制の不条理を如実に示すものであって、「送りつけ商法」と非難されても誇張とは言えない。
こうした不条理を根本的に改めるには、端末機器のいかんを問わず現行の一律定額制を改め、従量制を加味した体系へ受信料制度を転換させる以外にない。このことは生活必需的なサービスを提供する水道、電気、ガスといった公共料金でも、定額部分(基本料)と従量部分からなる二部料金制が採用されていることと比較しても、むしろ、自然な流れと言える。
とはいっても、厳密な従量制を加味するのは現在の課金技術に照らして難しいと考えられる。そこで、それに代わる近似的な従量制(視聴者の番組選好を一定程度、受信料の算定に反映させる方法)として、現在、NHKのハイビジョンが使用している12セグメントを、例えば4セグメント×3チャンネルに再編し、標準画質で3チャンネル同時放送をするという仕組みが考えられる。
例えば、NHK総合を①ニュース、ドキュメンタリー系番組、②スポーツ、娯楽系番組、③音楽、ドラマ、映画系番組に区分し、Eテレを④らいふ、健康、ハートネット系番組、⑤子供向け番組、⑥高校講座、語学等番組に分割して、この6つのチャンネルから見たいものを選択できるようにし、それを従量部分として、定額部分に上乗せするという体系を採用することは可能ではないかと考えられる。
どのジャンルを1つのセグメントに組み合わせるのか、公共性が高いと考えられるニュース(報道)番組も選択制にしてよいのか、定額部分と従量部分の比重をどうするのか、など検討課題は多いが、他のアイデアも含め、当会のこうした提案が、多くの視聴者、NHK他関係方面で広く議論され、NHKの受信料制度を開かれた議論を通じて、一歩ずつ改革していく一助となることを願ってやまない。
(3)NHKは視聴者の意見、議論に真摯に応答する責務を果たすべき
昨今、視聴者の間で広がっているNHKへの批判、不信には受信料制度以外に、「意見、疑問に応答しないNHK」という批判がある。当会も、これまで、NHKのニュース番組の国策放送化、重要な国会審議を中継しなかったNHKの番組編集等に批判や質問を提出してきた。また、悪弊を改めない相撲協会に多額の大相撲中継放映権料を支払うことへの疑問、紅白歌合戦の新聞広告にどれだけの掲載料を払ったかの情報公開請求等を行ってきた。
ところが、NHKはこれらのほぼすべてについて、独自の編集権を盾に応答を拒み、今後の事業の遂行に支障を来すという木で鼻をくくった理由で情報公開を拒んできた。しかし、「放送法」には次のような規定がある。
「協会は、その業務に関して申出のあつた苦情その他の意見については、適切かつ迅速にこれ を処理しなければならない。」(第27条)
また、「NHK放送ガイドライン」の 17「誠意ある対応」には次のような規定がある。
・「公共放送であるNHKは、視聴者によって支えられており、視聴者との結びつきが極めて大切である。ニュース・番組に対する問い合わせや意見、苦情などには誠意を持ってできるだけ迅速に対応する。批判や苦情も含め、視聴者の声は『豊かでよい放送』を実現するための糧である。」
前記のような当会の質問に対するNHKの応答拒否が、これら規定に反することは明らかである。また、NHKの編集権は国家権力の介入からNHKの番組編集の自立を守るためのものであって、視聴者からの意見、質問を遮る盾としてはならない。
視聴者からの意見、疑問へのNHKの慇懃無礼な対応、NHKふれあいセンターに寄せられる意見へのセンターの事務的処理に対する視聴者の不満、憤り、あきらめはマグマのように鬱積し、受信料支払い意欲を大きく減じている。
NHKが「視聴者の声は『豊かでよい放送』を実現するための糧である」と本気で考えているのなら、直ちに前記のような不真面目な視聴者対応を根絶しなければならない。このことを再度、NHKに強く要求する。
それでも、NHKが相変わらず、誤った編集権解釈を盾に当会ほか視聴者の意見、疑問、批判に応答しないなら、当会は司法の場を活用して、NHKの不当な姿勢を正す運動を起こす決意でいることを付記する。
以上
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