NHK政治部 原聖樹記者への公開質問状を提出しました。
NHK「クローズアップ現代+」は去る6月19日に、 <波紋広がる”特区選定”~独占入手 加計学園”新文書”>というタイトルの番組を放送しました。番組の内容は国会でも取り上げられ、社会的も大きな反響を呼びました。
(下記にNHKからの回答書あり)
番組の台本(全文)http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3993/
しかし、この番組でスタジオ出演した原聖樹・NHK政治部記者(官邸キャップ)の解説は、社会部が独自取材で入手した文書で示された特区選定の不公平・不透明な経過にことごとく蓋をし、官邸・内閣府あるいは国家戦略特区諮問会議有識者メンバーの言い分をそっくり、なぞるものでした。
そこで、私たち”NHK視聴者有志”は611名の連名で、原記者宛てに下記のような質問書を提出することにしました。
地味な取り組みではありますが、NHKの政治報道を政府広報に貶めている元凶といえるNHK政治部の姿勢を正す運動の一つになればと考えた次第です。
有志(連名提出者)の中には、各地の視聴者や視聴者団体の会員に加え、元NHKプロデューサーほかNHK・OB、日本ペンクラブ理事、メディア論研究者、弁護士、(現・元)大学教員も含まれています。
原氏には8月2日(水)までに書面で回答をもらうよう、要請しています。
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2017年7月25日
NHK政治部
原 聖樹 様
「クローズアップ現代+」(6月19日放送)における貴職の発言についての質問書
NHK視聴者有志(有志名簿は別紙)
原様におかれましてはNHK政治部の官邸担当キャップという重責を担われ、ご多忙の毎日をお過ごしのことと存じます。
去る6月19日にNHK「クローズアップ現代+」は<波紋広がる“特区選定“~独占入手 加計学園”新文書“>というタイトルの番組を放送し、その中で、「国家戦略特区」として獣医学部の新設が決定される過程で行政の公平性、透明性が確保されたのかどうかを、NHKが独自に入手した文書をもとに検証しました。この番組の内容は国会でも取り上げられ、市民の間でも活発な議論を喚起しました。
原様はこの番組の後半で、大河内直人・社会部記者とともにスタジオ出演され、「諮問会議のメンバーからは、選定のプロセスについて一点の曇りもないという発言が出ているが、これはどういうことか?」という武田真一キャスターの問いに対して次のように発言されました。
「すべての決定の過程が議事録が残っている①上に、オープンにインターネット上でされていると。すべての場所に必要な人が出席して、意思決定をしている中において、間違いが起きるはずがないということなんですね。
さらに先ほど『広域的』という文言もありましたが、有識者の方々は記者会見で、われわれが獣医師会や、規制を緩和したくない文科省に譲歩してなんとか認めてもらうために入れた文言であって、なんらかの変な形で入ったわけではなく、われわれのサジェスチョンで山本大臣が決定した②のだと。ですからそこに違法性はない③、政府もこうしたプロセスを踏んでることから、手続きが適正に行われていて違法性もない④と強調しているわけなんです。」(下線と番号①~④は質問者が追加)
このような原様の解説は、武田キャスターが紹介した諮問会議メンバーの主張を補充する形でなされたものですが、ファクト・チェックが必要と思われる箇所、NHKの報道番組に求められる自立した論点設定という観点に照らして疑問点があります。下線を付した①~④がそれです。
そこで、ご多忙のところとは存じますが、以下の私たちの質問について、8月2日(水)までに、別紙に記載しました宛先へ、文書でご回答をくださるよう、お願いいたします。
ご発言①について
a)私たちは国家戦略特区諮問会議、国家戦略特別区域会議、国家戦略特区ワーキンググループがそれぞれ公表した議事要旨、ヒアリング議事要旨(議事録は諮問会議運営規則第8条により、会議開催後4年を経過した後に公表するとなっています)を調査しましたが、獣医学部の新設申請が加計学園1校となる大きな理由になった「広域的に」、「開校時期を平成30年4月とする」といった条件を設けることをめぐって議論が交わされた記録はどこにも見当たりませんでした。
b) 逆に、6月13日に諮問会議有識者議員が開いた記者ブリーフィングにおける質疑の中で、今治市から諮問会議に提出された申請資料、今治市へのヒアリングの議事要旨が申請者の希望で公表されなかった事実が明らかになっています。
c)
また、同上記者ブリーフィングにおける質疑の中で、諮問会議ワーキンググループ座長 の八田達夫氏は、京都についても公平性を保つためにヒアリングの議事要旨を公表しな かったと発言したのに対し、記者から、京都府と京都産業大に取材したところ、ヒアリン グの最初に記録をすみやかに公表することに同意していたという回答を得たことが指摘 され、京都側は諮問会議の非公表の理由を否定しています。
質問1―1
上記a~cのようなファクト・チェックに照らせば、「すべての決定の過程が議事録が残っている」という原様の解説とは裏腹に、重要な意思決定の過程が議事録(正確には議事要旨)に残されておらず、原様の解説は事実に反する関係者の主張を主体的に検証することなく紹介されたと思われますが、いかがですか?
私たちの判断が間違いとお考えであれば、相応の反証事実をお示しください。
質問Ⅰ-2
「NHK放送ガイドライン2015」に収められた「4 取材・制作の基本ルール」の①企画・制作の3項目に次のような規定があります。
「報道番組やドキュメンタリィー番組、情報番組などでは、正確な取材に基づいて真実や問題の本質に迫ることが大切である。虚構や真実でない事柄が含まれていないか冷静な視線で見極めようとする姿勢が求められる。」
原様の解説の中の①は、諮問会議有識者議員の真実でない発言を冷静に見極めることなく、そのままなぞる解説といえるものであり、私たちは「NHK放送ガイドライン2015」の上記の規定に反するものと考えます。
原様の見解をお聞かせください。
ご発言②について
d)6月13日に諮問会議有識者議員が開いた記者ブリーフィングにおける質疑の中で、
「平成28年11月の特区諮問会議決定で『広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り』との限定を付したのは、これは誰がどのように起案して、どのように話し合いがされて、ここで限定が付されたのでしょうか。」という記者の質問に対し、八田達夫氏は、
「これは基本的には3大臣の中で決められたわけです。最後、諮問会議に出されたこの案を提示されたのは、山本大臣だったと理解しています。山本大臣はその前にワーキ ンググループのサジェスチョンを聞いて下さいました。」
と答えています。
e)しかし、諮問会議の有識者議員が山本幸三特命担当大臣に対して、いつ、どこで、どの ようなサジェスチョンをしたのか、それに対して山本大臣はどのような応答をしたのかについて、諮問会議の議事要旨にも配布資料にも一切、記録はありません。
また、山本大臣が有識者議員のサジェスチョンを踏まえて「広域的」という文言を追加することを諮問会議で提案した事実も、諮問会議で「広域的」とか、平成30年4月を開学予定とするとかいった重要な条件をめぐって議論が交わされた事実を証する記録も、議事要旨に一切、見当たりません。
結局、京都産業大の申請を不可能にし、加計学園だけが残る結果になった「広域」条件、「平成30年4月開学」といった条件が、いつ、どのような議論を経て決まったのか、その経緯はブラックボックスになっています。
f)諮問会議の有識者議員が適正な手続きの一つとして挙げた「三大臣合意」について、山本特命担当大臣は今年の6月6日に開かれた参議院内閣委員会で、この「三大臣合意」が交わされた経緯の説明、「三大臣合意」文書そのものの提出を再三、求められたのに対し、次のように答弁しています。
「この三大臣合意というのは、これは大臣として確認した事項であります。公式の文書として作ったものではありません。
そもそも行政文書というのは、国家公務員がその職務を遂行するに当たり法令等に基 づき適正に作成、保存しているものであり、これに違反した場合には懲戒処分等、さらには公文書偽造罪に該当することになるなど、その真正性については制度的に担保されているところであります。
ただ、二十八年の十二月二十二日に作成されたこと、これはもう私ども三大臣として確認しているわけであります。したがって、その真正性を証明するために、これ以上役所が保有する個別の電子ファイルについて逐一プロパティーデータ等に遡って確認することまで求められるとすれば今後の行政遂行に著しい支障を生じることになるために、行政サイドとして到底対応できるものではないと考えております。」
g)しかし、上記の三大臣合意は国家戦略特区として新設の獣医学部を選定する際の重要な条件を定めた文書であり、「内閣府本府行政文書管理規則」の「別表第1 行政文書の保存期間基準」の分類に従えば、「6 関係行政機関の長で構成される会議(これに準ずるものを含む)の決定又は了解の立案の検討及び他の行政機関への協議その他の重要な経緯」を証する行政文書に該当し、10年の保存を義務付けられるものです。となりますと、山本大臣の上記の国会答弁は内閣府が「公文書管理法」の次の定めに違反する行為を行った公算が強いことを意味します。
「第4条 行政機関の職員は、第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
一 省略
二 前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
三~五 省略」
質問2-1
獣医学部新設をめぐる最大の疑惑は「加計ありきの選定ではなかったか」という点ですが、原様は、特区選定の手続きは適正に行われ、違法性はない、という諮問会議有識者議員の主張をなぞる解説をされました。
しかし、原様がなぞられた諮問会議有識者議員の主張には、事実に反する点、重要な事実を無視した点があります。
この意味で、原様の解説の③④の箇所は「正確な取材に基づいて真実や問題の本質に迫る」姿勢、「虚構や真実でない事柄が含まれていないか冷静な視線で見極めようとする姿勢」を欠くものだったと私たちは考えます。この点について、原様はどのようにお考えか、お聞かせください。
質問2-2
原様は解説③④の箇所で、「違法性はなかった」という諮問会議の有識者議員の発言を紹介されました。しかし、6月19日の「クローズアップ現代+」の主題は「特区選定の過程で公平性や透明性は保たれていたのか」ということでした。このような番組の主題、ねらいに照らせば、問題を「違法性」に絞る諮問会議有識者メンバーの主張をそのままなぞった原様の解説は番組の主題、ねらいにそぐわず、「問題の本質に迫る」姿勢に欠けるものだったと思われます。
この点について、原様はどのようにお考えか、お聞かせください。
質問2-3
上記のような山本特命担当大臣の国会答弁は「公文書管理法」第4条に抵触する可能性が強いと私たちは考えます。この点で、今回の特区選定過程には「違法性」の面から見ても、重大な問題があると考えられます。
原様はこの点をどのようにお考えか、お聞かせください。
以上
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7月31日回答が来ました。
原記者からではなく、差出人は「クローズアップ現代+」となっています。
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NHK視聴者有志のみなさま
平素より、NHKの番組にご理解を賜り、誠にありがとうございます。
2017年6月19日放送のNHK「クローズアップ現代+」(波紋広がる“特
区選定”)に関する質問書につきまして、以下の通り、回答させていただきます。
回答については、番組内での解説であることから、「クローズアップ現代+」
としてお答えさせていただきます。
ご指摘のあった政治部・原記者の解説は、番組のテーマである国家戦略特区の
選定に関して、国家戦略特区諮問会議の立場や見解についても政府内外の取材
を尽くしたうえで、より多角的な観点から理解や議論を深めていただこうと行
ったものです。
特区選定の報道に関しましては、視聴者の皆様から多様なご意見・ご指摘を頂
いており、それぞれ貴重なご意見として受け止めさせて頂くとともに、今後の番
組制作にいかしてまいります。今後も、NHKの番組につきまして、ご理解賜り
ますようお願いいたします。
2017年7月31日
NHK クローズアップ現代+
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中身は、ご覧のとおり、実質、ゼロ回答です。
私自身は今回の質問は、611名の視聴者が原氏の解説をどのように注視し、ウオッチしたかを伝えることに、まずは意味があると考えました。
だからといって、「回答」の中身は想定の範囲内、と達観してよいとは、もちろん、思いません。
2つ、コメントしたいと思います。
「・・・・原記者の解説は、番組のテーマである国家戦略特区の選定に関して、国家戦略特区諮問会議の立場や見解についても政府内外の取材を尽くした①うえで、より多角的な観点から②理解や議論を深めていただこうと行ったものです。」(下線は醍醐の追加)
① 「取材を尽くした」のでしょうか?
「すべて議事録に書かれている」という山本大臣や諮問会議民間委員の発言は事実でないという指摘を否定するなら反証を示してほしいと求めた質問に対し、何ら反証を示さず、「取材を尽くした」と答えるのは、あまりに無神経で不遜です。
② 質問の主意から外れた回答
今回の質問は、放送法第4条第1項で言えば、四号の「多角的論点の提供」を問題にしたものではなく、三号の「報道は事実をまげないでする」を順守したかどうかを問うものであることは、たやすく理解できたはずです。「回答」は論点のすり替えです。
*自分の言葉で語った解説には自分で答えるというモラル、矜持が原記者にはないのでしょうか? それでジャーナリズムの職をまっとうできるのでしょうか? 視聴者への説明責任(高野真光「NHKにも『視聴者に対する説明責任』を」『マスコミ市民』2017年8月号所収)よりも官邸政治部記者というポジションの方が大事、ということなのでしょうか?
これからも根気よく、的確なファクトチェックにもとづいて、ウオッチしていきたいと思ってます。(醍醐 聰)
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