籾井発言を一切伝えないNHK報道について審議を─当会を含む18団体BPOに要望書提出
放送倫理・番組向上機構御中 2015年3月23日
本年2月の会長定例会見等における籾井NHK会長の発言を自局のニュース番組で一切伝えなかったNHKの報道のあり方について審議を求める要望書
NHK会長の籾井勝人氏は2015年2月5日に開催された会長定例会見で、戦後70年の節目にあたり、「従軍慰安婦」問題の報道の見通しを聞かれたのに対して、「政府のスタンスがよくまだ見えない」、「夏にかけて政府のきちんとした方針が分かるのか、この辺がポイントだ」と発言した。また、同月18日に籾井氏が出席して開かれた民主党の部門会議では、籾井氏のこれまでの一連の発言が取り上げられ、同党国会議員との間で激しい議論が交わされた。さらに、同月20日の衆議院予算委員会でも、参考人として招致された籾井氏と委員の間で籾井氏の過去の発言や資質をめぐって質疑が交わされた。
「政府のスタンスがよく見えない・・・」という籾井氏の発言は、会長就任会見の場で「政府が右というものを左とは言えない」と語った同氏の見識と軌を一にするものであり、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定めた「放送法」第3条に明確に反している。
それだけに、民放各局や全国紙などは籾井会長の上記の言動を大きく報道し、「NHK会長 向き合う先は視聴者だ」(2月7日、「朝日新聞」社説)、「籾井NHK会長 国の広報機関ではない」(2月23日、「毎日新聞」社説)などと警鐘を鳴らした。
ところが、おひざ元のNHKは2月5日、18日、20日の籾井会長の発言のうち、2月20日の衆院予算委員会での後藤民主党議員と籾井会長の質疑の模様を、2月23日の総合「ゆうどき」とBS1(BSニュース)で簡略に伝えたにとどまり、総合の主要な定時ニュースでは問題の発端になった5日の会長会見の場での籾井会長の発言も18日の民主党の会合での質疑も一切伝えなかった。
さらにさかのぼると、NHKは昨年1月25日に開催された籾井氏の会長就任会見の場での一連の問題発言(「政府が右という時・・・・」など)を今日まで一切、伝えていない(当日のニュース7で会見の模様を伝えたが、問題発言の部分はすべてカットした)。
ここで私たちが思い起こすのは、貴機構の「放送と人権等権利に関する委員会」決定第36号(2008年6月10日)である。そこでは、NHKが一方の当事者となった民事訴訟に関する東京高裁の判決をニュースウオッチ9が報道するにあたって、「当事者としてのNHK」の言い分と政治介入が疑われた政治家のコメントだけを伝え、他方の当事者の言い分を紹介しなかったことが問題にされ、同委員会はこれを、公正・公平な取り扱いに欠け、放送倫理に反すると判断した。
本件要望書は民事上の係争事件ではなく、NHKの視聴者という立場からの審議の要望であるが、「当事者としてのNHK」と「報道機関としてのNHK」が峻別されず、後者が前者の意向に事実上、従属した結果、報道の公正が侵害され、放送倫理に反する報道の不作為が生じた点では委員会決定第36号の判断が当てはまる事例といえる。
しかも、NHKは運営財源のほぼすべてを視聴者が負担する受信料で賄っている法人である。この点からすると、NHKの最上位のステークホールダーというべき視聴者に、組織のトップに立つ人物が会長としての資質、適格性を備えているかどうかを判断する上で重要な情報を提供しなかったNHKの報道のあり方は、視聴者の知る権利を侵害し、NHKのガバナンスを有効に機能させるのを妨げる行為と言わなければならない。
よって、私たちは貴機構が以上の意見を受けて、「報道機関としてのNHK」が「当事者としてのNHK」から自律した公正な報道に徹するよう促す意見、さらには勧告を発出すべく審議下さるよう要望する。 以上
--------------------------------------------------------------------------
意見提出者(18団体・29名)
足立恭子(NHKを憂える運動センター・京都 共同代表)
今井 潤(放送を語る会・代表)
岩佐英夫(籾井さん! NHK会長やめはったら受信料払います京都の会・共同代表)
大江真道(籾井さん! NHK会長やめはったら受信料払います京都の会・共同代表)
神谷扶左子(NHK問題を考える会・かながわ 世話人)
河野安士(NHK問題大阪連絡会・代表)
倉本頼一(NHK問題京都連絡会・代表)
佐藤真理(NHK問題を考える奈良の会・代表)
篠原一郎(NHKを考える広島の会・世話人代表)
島田 耕(NHK問題考える滋賀連絡会・代表世話人)
志水紀代子(追手門学院大学名誉教授)
須田 稔(籾井さん! NHK会長やめはったら受信料払います京都の会・共同代表)
隅井孝雄(NHKを憂える運動センター・京都 共同代表)
醍醐聰(NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ・共同代表)
田中重博(NHK問題とメディアを考える茨城の会・代表世話人)
田場祥子(「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター(VAWW RAC)・運営委員)
丹原美穂(市民のメディアをつくる会・ぎふ・代表)
中島 晃(NHKを憂える運動センター・京都 共同代表)
中西綾子(時を見つめる会)
浪本勝年(NHK問題を考える会(兵庫)・共同代表)
西野瑠美子(「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター(VAWW RAC)・共同代表)
貫名初子(NHK問題を考える会(兵庫)・共同代表)
畠山与一(マスコミ問題を考える秋田の会・代表)
山口英昌(NHK問題を考える会(屋久島)・事務局担当)
山中静夫(NHK問題を考える会・さいたま・事務局長)
湯山哲守(NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ・共同代表)
山田恵子(「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター(VAWW RAC)・事務局長)
山中章(NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ・運営委員)
渡辺力(NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ・運営委員)
| 固定リンク
「BPO意見書」カテゴリの記事
- BPO宛に"クローズアップ現代+"「韓国 過熱する“少女像”問題 初めて語った 元慰安婦」に関する審議要望書を提出しました。(2017.03.17)
- 7月12日にシンポジウム「沖縄 戦後70年:基地問題とジャーナリズム」--”辺野古から考える日本のジャーナリズム”(2015.06.13)
- BPOに「辺野古の米軍基地建設に関するNHKの報道の不公平と不作為を正すための審議を求める要望書」を提出しました。(2015.04.23)
- 籾井発言を一切伝えないNHK報道について審議を─当会を含む18団体BPOに要望書提出(2015.03.24)
- BPO:2番組審議へ(2011.02.19)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
政府の圧力に屈し籾井の意向で大越キャスターが降板させられたのは怒り心頭。代わりのキャスターの言動も、男性アナウンサーを「〜君」呼ばわり(パワハラっぽい)相手を見下げる言動で人格を疑う。大越さんは全ての人に公平に接していた。挙げ句、女性キャスターには敬語で話し、更にうっとうしいことに気象キャスターの井田さんの横に立ち、井田さんの発言を意味もなく繰り返し口にしている様子に初日からうんざりした。体制を改革するつもりはないならば受信料は払うことはできない。公共放送の在り方を再度考え直してほしい。戦前の言論統制を想起させられて疑義を抱かざるを得ない。
投稿: 石原浩太郎 | 2015年4月 1日 (水) 22:42