経営委員会に欠ける公共放送を守る気魄 - WEBRONZA
経営委員会に欠ける公共放送を守る気魄 - WEBRONZA
武田徹 2011年01月13日
NHK新会長人事は、一度は内定と伝えられた安西祐一郎・元慶応大学教授が経営委員会の推薦を辞退したため迷走した。
筆者は報道されている以上の経緯を知る立場にないが、放送史に関する知識が多少はあるので、安西氏と同じように学識経験者が日本放送協会会長に推挙され、実際に会長に就任した過去のケースを引き、それとの比較から会長選考のあるべき姿を考えてみたい。
●「国家権力に駆使されない放送を」
終戦直後、日本の放送メディアの民主化は占領政策の最重要課題のひとつだった。GHQ民間通信局局長ハンナーは、いわゆる「ハンナーメモ」で独立行政組織として「放送委員会」の設置を日本側に要請。放送の運用を政府から切り離させようとした。
この放送委員会の会長には東京芝浦電気電子工業研究所所長の浜田成徳が任命され、滝川事件で京大を追われていた滝川幸辰や社会党国会議員の加藤シヅエ、社会主義運動家の荒畑寒村らが委員となっていた。こうして設置された委員会の最初の仕事が日本放送協会の会長の任命であり、放送委員会委員の一人だった岩波書店社長の岩波茂雄が推挙し,説得に当たったのが労働経済学者の高野岩三郎だった。
高野は1871年生まれ、気骨あるリベラリストとして知られた明治人であり、国際労働機関(ILO)への日本代表の派遣人事を巡って政府と対立して自ら設置に貢献した東大経済学部の教授を辞した後、大原社会問題研究所長の職に就いていた。終戦後はいち早く「日本国共和国憲法」草案を作るなど民主的体制の確立に向けて旺盛に活動を再開させていた高野は、1946 年4月30日、第五代日本放送協会会長に就任した最初の挨拶でこう述べたと伝えられている。
「ラジオはこの大衆とともに歩み、大衆のために奉仕せねばならぬ。太平洋戦争中のように、もっぱら国家権力に駆使され、いわゆる国家目的のために利用されることは、厳にこれを慎み、権力に屈せず、ひたすら大衆のために奉仕することを確守すべきである」。
こうして公共放送の使命について会長自らが明言する姿勢は力強い。
NHK会長には従業委員数1万人を越える(平成22年度)巨大な放送局組織を経営する能力が求められるだけではない。NHKを守ることは同時に「公共放送」を守ること。逆に言えばNHKが守られても、公共放送が死んでは意味がないのだ。
http://astand.asahi.com/magazine/wrnational/2011011100006.html?iref=webronza
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不可解さに満ちたNHK会長選びの内幕
川本裕司2011年01月13日.不可解さに満ちた選考劇だった。1月24日に任期満了を迎える福地茂雄NHK会長(76)の後任選びである。経営委員会で意中の人物を絞り込み、大任である公共放送トップ就任の了解を得るのがいつもの習わしだが、これほど躓きっぱなしの会長人事は聞いたことがない。
経緯を簡単にまとめてみよう。福地会長は当初から1期3年限りで退任する意向を表明していた。
このため、関係者によると、会長の水面下での後任選びは早々と着手され、09年末には西室泰三・東芝相談役(75)が最有力候補となっていた。元財界トップの推薦を受け、西室氏擁立の中心になったのは原口一博総務相(当時)で、総務省官僚も承知していたという。ただ、西室氏は米IBM社外取締役(10年7月に退任)だったため、「過去1年間に放送機器メーカーの役員だった場合はNHK会長になれない」という放送法の規定に抵触する。これをクリアするため、抜本的な放送法改正案で、この規定を緩和する項目も盛り込むことにした。
ところが、ねじれ国会となった昨年11月19日、放送法改正案からこの欠格事由の緩和などを削除することが与野党で合意された。
インサイダー株取引などの不祥事からNHK改革を軌道に乗せた福地会長の続投を望む声が経営委で強まっていたが、福地会長は退任を明言した。朝日新聞の取材に、福地会長は「1期のつもりで走ってきたので、あと3年といわれても精神的に持たない。また、慣れてくるとどうしても傲慢になってしまう」と、続投拒否の理由を語った。そして、会長選びは振り出しに戻った。
退任の可能性が高いため次期会長選びをと進言する経営委員に、小丸成洋経営委員長は「まだ時間がある」と拒んできた。ようやく経営委で人選に着手したのは、西室氏の目がなくなった12月7日の経営委からだった。
12月21日午後の経営委で委員が推薦する候補の名前をあげることになっていた。推薦候補のいる委員は、20日までに小丸委員長とNHK経営委員会事務局に伝えることになっていた。
経営委当日の21日午前、ある経営委員は総務省幹部から電話を受ける。「委員会が真っ二つになるようなことは避けてください」。委員はこの日の日経新聞朝刊に載っていた「NHK次期会長に松本正之JR東海副会長浮上」という記事について尋ねると、「あれは冗談です」と言われたという。委員は「総務省からどうして電話がかかってくるのか、なぜ情報が漏れているのか」と憤る。
名指しされた総務省幹部に「電話を委員にかけたか」と聞くと、「間違いじゃないでしょうか」ととぼけながら否定された。
結局、21日の経営委で4人の候補者が推薦された。安西祐一郎・前慶応義塾塾長、白井克彦・前早稲田大総長、草刈隆郎・日本郵船相談役の外部3人と、今井義典NHK副会長だった。今井氏は外部3候補が不調の場合という位置づけだった。
支持者が最も多かった安西氏は27日に就任を受諾する意向を伝えた。しかし、その際、「都内に部屋を用意してほしい」「交際費はいくらまで使えるか」「副会長を外部から連れて行きたい」という3条件を出したとされること(安西氏は「横浜で遠いから住居についてうかがったし、交際費についてもそういうものがあるのか、私は大学勤めなので全く知らずに、そう言う意味で伺ったけれども、条件を付けたということではまったくない。副会長については私の記憶では副会長とか理事の任期は何年かとうかがった覚えはある」と、条件ではなく仕事の環境についての質問と説明している)が尾を引く。ある経営委員は「不況のなか視聴者から反発され、受信料不払いが起きかねない」と批判した。
さらに、年明けの1月5日に経営委員の非公式会合で、事態はさらにこじれていく。安西氏を推薦した小丸委員長が安西氏本人と面識がないことが明らかになった(小丸氏は11日の記者会見で「資料とネットで調べた」と発言)。女性の経営委員を中心に「安西氏個人の資質うんぬん以上に、経営委員の誰もがよく知らない人物を選んでいいのか」という根本的な懸念が噴出した。・・・・
http://astand.asahi.com/magazine/wrnational/2011011100027.html
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「政治不在」ここに極まれり! NHK会長人事迷走を招いた元凶は誰か|岸博幸のクリエイティブ国富論|ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/articles/-/10746
NHK会長人事が大揺れに揺れています。ただ、報道ではNHKの経営委員会の問題ばかりが指摘されていますが、本当にそうでしょうか。民主党政権のだらしなさも多少は影響しているのではないでしょうか。
経営委員会の対応は論外
まず、経緯をざっとおさらいしましょう。
NHKの経営を監督する組織である経営委員会は、NHK会長を選任する権限も有しており、現会長の福地氏の任期が今月24日に満了となるため、次期会長探しを行なってきました。
昨年12月の段階で小丸経営委員長から安西氏(元慶応大学塾長)に「経営委員会の総意として」会長就任を依頼し、安西氏は受諾したのですが、12 月末に「会長就任に当たって3条件を要求」といった記事がメディアに出ると、1月5日の経営委員会の非公式会合では一転して就任反対の声が強まり、安西氏の就任辞退に至りました。
福地氏に再任を受ける意思はないため、あと10日足らずの間に次の会長候補を決めなくてはならず、臨時で経営委員会を2回開催する予定になっていますが、なぜこのような無様なことになったかと言うと、小丸経営委員長のみならず、経営委員会全体に最大の責任があることは間違いありません。
会長就任を一度依頼しながら、メディア情報で簡単に判断を翻したことはもちろんですが、それに加え、二つの問題があります。
第一に、メディアへのリークはNHK内から流出しています。内部の特定の人たちが明確に安西潰しを狙って仕掛けていますので、経営委員にも直接根回ししたかもしれません。経営委員は、その人たちがどのような意図でリークしたのか、その意図は正しいのかを考えたのでしょうか。
私のところには、NHK内の特定の派閥の人たちが復権を狙って仕掛けたという情報が来ています。もしそれが本当なら、それに踊らされた経営委員たちは、安西氏について間違った判断をしたのかもしれないのではないでしょうか。
第二に、経営委員の人たちは、NHKが“民間の悪いところと役所の悪いところを足して二で割ったようなところ”であり、内部には“政治力もある権力闘争好きな肉食獣”がたくさんいることを分かっているのでしょうか。
NHKがそうした組織であり、かつそうした人たちこそNHK改革に反対であることを考えると、会長人事はかなり戦略的に進めなければならなかったはずです。そうした観点から考えると、これは特に小丸経営委員長の責任になりますが、やり方があまりに稚拙過ぎたと言わざるを得ません。
民主党政権の責任も重い
このように、今回の会長人事の迷走の一義的な責任は経営委員会にありますが、同時に民主党政権の責任も重いことを忘れてはいけません。
これまで、NHK会長人事で今回のようなみっともない事態が起きたことはありません。与党の政治家と総務省(かつては郵政省)の官僚が水面下で動いて、関係者間の合意を形成していたからです。
それに比べ今回は、根回しなどで政治家や官僚がしっかりと動いた形跡はあまりありません。その原因は、官僚よりも政治家の側にあると思います。
官僚は、過去一年の民主党のやり方から、勝手に動いたら怒られると思い、自発的には動きにくかったはずです。かつ、今の総務大臣は民間人なので、この問題で動くべきかも分かっていなかったはずです。つまり、総務省は自発的にNHK会長人事のために動く状況にはなっていなかったと考えられます。
その一方で、民主党でもかつての自民党のように族議員化が進んでいますし、政治家は人事が大好きですので、この問題に関与し、総務大臣や官僚を動かすことができる政治家は何人もいたはずです。
しかし、おそらくそうした動きがほとんどなかったからこそ、経営委員会が自力ですべてやらなければいけなくなり、今の無様な事態を招いたと考えることができます。政治主導を叫んできた結果がこれかと思うと、経営委員会が可哀想にも思えるし、NHK会長人事という一事をもってしても、民主党に政権を担える能力があるのかと疑問を感じざるを得ません。
NHK改革は進まない
今回の会長人事を巡るゴタゴタは、巷の企業の内部でよく起きる派閥闘争、権力闘争と同じ類いです。会長は内部から出したい、内部の特定の派閥の人たちの復権につながる会長を選びたい、といった思惑が働いています。公共放送としては、本来は国益の観点を最優先に考えないといけないのに、狭い組織の中の権力闘争ばかりを優先しているというのは、情けない限りです。
いずれにしても、残り10日程度で新しい会長を決めなければなりませんが、この情けない権力闘争はまだ続いています。この原稿を書いている13日の夜の段階で、「福地会長がNHK技師長の永井氏を後継指名した」という情報がメディアに流れました。安西氏のときと同じやり口です。NHK内の特定の派閥の人たちにとっては、永井氏も面白くないのでしょう。
この状況を見ていると、戦略性も何もない無能な経営委員会と党内政治にかまけて何もしなかった民主党政権に対して、改めて怒りがこみあげてきます。
会長人事は本来手段でしかありません。その手段で達成すべき目的はNHK改革であり、やるべきことは山積みなのに、残り10日間も国益を無視した内部の権力闘争に振り回され、その結果やっつけで新会長が決まるようでは、NHK改革はすべて先送りとなるでしょう。
今回の顛末を受け、経営委員会のみならず経営委員全員は自ら職を辞すべきではないでしょうか。また、民主党政権は国民に土下座すべきではないでしょうか。NHKの現場でマジメに頑張っている職員の皆さんが可哀想ですし、何よりも、そうした腐ったNHKの内情を知らずにマジメに受信料を払っている国民に失礼です。
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