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2010年8月25日 (水)

続「NHKは恥ずかしくないのか」、番組改変事件の現場責任者が全容を告発 「柴田鉄治のメディア時評」

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 昨年2月の私のメディア時評その3、「長井氏の退職、NHKは恥ずかしくないのか」という原稿を覚えている方はおられるだろうか。
 「従軍慰安婦を取り上げたNHK教育テレビの番組が01年の放送直前に改変された問題で、『政治介入があった』と05年に記者会見し、内部告発した長井暁氏が近く退職する」という記事をもとに、長井氏はNHKのコンプライアンス(法令順守)委員会に規程通り「正しい告発」をしたのに、NHKは調べもせずに報復的な人事で制作現場からはずしたうえ、退職にまで追い込んでしまった、それでもNHKは恥ずかしくないのか、と糾弾した原稿である。

 この原稿は覚えていなくても、この番組改変事件とは、05年1月に朝日新聞が「自民党の安倍晋三、中川昭一氏らの介入があって放送直前に改変された」と報じたことで朝日・NHKの大喧嘩に発展した事件であることは覚えておられるだろう。
 ところが、この大喧嘩も、その後NHK側には一切、反省や謝罪の言葉はなく、一方の朝日新聞の側だけが記事は正しかったのに「取材の詰めが甘かった」と頭を下げてしまったため、奇妙な形に終わっていることは、よく知られている通りである。続きを読む
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NHK、鉄の沈黙はだれのために― * [評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

NHK、鉄の沈黙はだれのために―番組改変事件10年目の告白 [著]永田浩三
http://goo.gl/uOJE
http://megalodon.jp/2010-1007-1719-27/book.asahi.com/review/TKY201010050118.html
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       6. 記事[掲載]2010年10月3日
    * [評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)
■意思決定の真相に当事者が迫る
 NHKの番組改変事件から10年がたとうとしている。ETV2001特集「戦争をどう裁くか」の2回目「問われる戦時性暴力」が、直前に改変されたこの事件は、大物政治家からの圧力問題にまで発展した。
 番組が扱った内容は、慰安婦制度の責任を議論する「女性国際戦犯法廷」。2000年12月に都内で開催された民間法廷で、一部の右派が強く反発した。
 著者はこの番組の担当プロデューサー。現在は、既にNHKを離れている。
 本書は、事件の当事者が「改変」の真相に迫るドキュメンタリーだ。彼は、当事者でも知ることができなかったNHK幹部の意思決定にメスを入れる。自分が直面した問題と向き合い、事件の暗部を掘り下げる。
 問題の焦点は、政治家からの圧力の有無と幹部の意思。公共放送であるNHKは、事業計画や予算が国会で審議され、承認を必要とする。そのため、権力との距離が常に問題になる。
 この番組に対しては、一部の政治家が「偏向している」との懸念を示した。右翼によるNHKへの抗議が激化する中、幹部は与党政治家と会談を行い、番組改変の流れが加速する。
 事件後の高裁判決と局内有志の検証では、幹部の行きすぎた忖度(そんたく)が問題視された。政治への過剰反応が具体的な改変へとつながり、重要な場面のカットが断行されたというのである。
 著者はさらに深く真相に切り込む。改変の意思決定の中心人物の一人に伊東律子番組制作局長がいた。著者は伊東氏に真相を聴き出すべく迫った。
 伊東氏は沈黙の後、言った。「じゃあ言うわよ……。会長よ」「えっ、海老沢会長ですか」「そう、会長。それ以上は言えない」
 伊東氏は昨年、鬼籍に入った。当時の放送総局長は一切を語らず、海老沢氏も沈黙を続けている。
 著者がこじ開けようとしても揺るがない「鉄の沈黙」。問題の核心が見えないまま、事件は忘却されようとしている。
 メディアと権力、そして表現の自由の揺らぎ。我々は、この事件を放置してはならない。
    ◇
 ながた・こうぞう 54年生まれ。元NHKプロデューサー。武蔵大学教授。
表紙画像
NHK、鉄の沈黙はだれのために―番組改変事件10年目の告白
    著者:永田 浩三
    出版社:柏書房  価格:¥ 2,100

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当時のDが語る番組改変事件の真相『NHK、鉄の沈黙はだれのために』日刊サイゾー  2010.09.16 木
http://www.cyzo.com/2010/09/post_5477.html

『NHK、鉄の沈黙はだれのために』(柏書房)
 2001年に起きたNHKの番組改変事件を覚えておられるだろうか。これは、01年1月30日に放送されたETV2001シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2回「問われる戦時性暴力」を放送した際、当初の企画と放送内容に大きな隔たりがあり、不正確な情報が一方的に放送されたとして、VAWW-NETジャパン(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク)がNHKを訴えた事件だ。各メディアがNHKを激しく批判し、右翼団体がNHKを襲撃したりと、大きな事件となった。

番組内容改変には、安倍晋三や中川昭一など、議員の圧力があったとされている。判決はVAWW-NETジャパンの敗訴(=NHKの勝訴)となった。番組制作における政治介入は、「表現の自由」「編集の自由」を侵害するとともに、放送法の「政治的に公平」「事実を曲げない」という原則に反しているとして、現在も議論の対象となっている。  10年弱が経過した今日だから、語れる言葉がある。『NHK、鉄の沈黙はだれのために』は、当時NHKのディレクターとして「問われる戦時性暴力」の制作に直接携わった永田浩三氏が、番組改変に至った経緯や当時の心境、裁判の様子などをこと細かに記したノンフィクションだ。当時現場にいて、事件の渦中にあった人の言葉は、ドキュメンタリー番組さながらの迫力がある。

 事件の争点はこうだ。VAWW-NETジャパンが主催した「女性国際戦犯法廷」を取材し、日本軍の犯した性犯罪に対する最終判決が「昭和天皇の有罪」となった。放送前、安倍晋三、中川昭一ら議員数名が放送内容を改変するよう圧力をかけ、NHKが改変に応じたとされる。その結果、「天皇有罪」はもちろん、「従軍慰安婦」や「慰安所」の存在そのものを削られ、「女性国際戦犯法廷」を一方的に非難するような内容となってしまった。

永田氏は「反日ディレクター」と罵られ、関係した数名が職を辞した。現場は作業に追われ、下請け制作会社とは絶縁状態になり、上層部はなかなか真相を語らない。チーフプロデューサー・長井暁氏の告発、番組制作局長・伊藤律子氏の涙など、関係者一人ひとりの証言から、パズルのように"真相"が浮かび上がってくるのが面白い。

 NHKは番組改変事件の裁判に勝ったが、裁判記録だけでは事件の真相は見えてこない。NHKが"鉄の沈黙"をしいて守ったものは、だれのための何だったのか。メディアのあり方を考えさせられる一冊である。(文=平野遼)

・ながた・こうぞう 1954年大阪生まれ。東北大学教育学部教育心理学科卒。77年NHK入局。81年、ラジ・ドキュメンタリー『おじいちゃんハーモニカを吹いて...』で芸術祭賞・放送文化基金賞。ディレクターとして、『ぐるっと海道3万キロ』(アジア放送連合賞)、『日本その心とかたち』、NHK特集「どんなご縁で」(テレビ技術大賞)、『NHKスペシャル』の「又七の海」「社会主義の20世紀」など担当。91年からはプロデューサーとして『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』を担当し、多くの番組を制作する。NHK番組改変事件の現場となった『ETV2001』では、シリーズ「戦争をどう裁くか」の編集長。2002年、国谷裕子キャスターらとともに『クローズアップ現代』で菊池寛賞を共同受賞。NHKアーカイブス・エクゼクティブディレクターをへて、09年から武蔵大学社会学部メディア社会学科教授。精神保健福祉士。著作に『いつだって一期一会・カメラマン新沼隆朗』(共編著、武蔵野書房)、『NHK番組改変事件』(証言、かもがわ出版)、『知っていますか子どもたちの食卓』(共編著、日本放送出版協会)など。

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