夢が見えない「地デジ大作戦」 - 池内 正人 - 新聞案内人 :新s あらたにす(日経・朝日・読売)
テレビの画面に「地デジの準備は・・・」とか「アンテナは・・・」とかいうテロップが大量に流されるようになった。総務省が作ったコールセンターの電話番号も。
来年7月24日に予定される地上デジタルへの完全移行まで1年を切り、地デジ大作戦が始まった。総務省は全国1000か所に相談所を設けるという力の入れよう。
それというのも、地デジへの切り替えが思ったように進んでいないからだ。総務省の集計によると、全世帯の2割強に当たる1100万世帯がまだ対応していない。
専門家の間では、来年7月の完全移行はムリだという見方が強まっている。放送関係の有識者は、2-3年の延期を提言した。だが総務省は断固として方針を貫く姿勢を崩してはいない。
○なぜデジタル化
新聞やテレビも、地デジ化の長所を盛んに解説している。画面が鮮明になる。双方向通信が可能になる。電波障害が少なくなる・・・。
NHKや民間テレビ局は、いまアナログ波とデジタル波の放送を同時に流している。完全にデジタル化してアナログ波の放送を停止すれば、それだけコストを低減できる。だからテレビ局が地デジ化に熱心なことはよく理解できる。
しかし地デジ化の長所やテレビ局の負担軽減は理解できても、視聴者の方も地デジ化にはおカネがかかる。特に都市部のマンションなどの集合住宅と山間部では、コストの問題がネックになって地デジ化が進まない。
まだ対応ができていない1100万世帯の大半は、地デジ化そのものに対して不満を持っているという。いまのアナログ放送で満足しているのに、なぜカネをかけてデジタル化しなければいけないのか。
ここまでくると、総務省の地デジ大作戦には致命的な欠陥があるように感じられる。それは地デジ化で不要になる多数のアナログ波をどうするのか。その説明がほとんどないことだ。
携帯電話向けのテレビ放送に使うという見方が有力だが、政府はまだ具体策を固めていない。とにかくデジタル化を完了して、アナログ波を“供出”せよと言うばかり。これでは地上げ屋のやり口とそう変わらない。
○国民生活、新産業は?
アナログ波をどう再活用するのか。それによって国民の生活は、どう変わるのか。新しい産業が起きるのか。景気を刺激する力は?
こういう点を明確にすれば、国民はもっと納得するのではないか。要するに、いまの地デジ大作戦には夢がなさすぎる。テレビ局にはムリだとしても、新聞はこの問題を積極的に取り上げる責任があると思う。
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【地デジカウントダウン あと1年】 モデル地区・珠洲 特例づくし「参考にならない」
「我が国のテレビ放送の新たな時代が始まった」
7月24日、1年先駆けて「地デジ完全移行」を実現した石川県の珠洲(すず)地区。イベントで泉谷満寿裕(ますひろ)珠洲市長が誇らしげにあいさつしたように、約8800世帯の「モデル地区」では、ほぼノートラブルでアナログ放送を停波したことに関係者の満足が広がった。電波障害をうかがわせる問い合わせもなく、ある職員はつぶやいた。「完璧だよ、完璧」。。。。。。。。。。