地デジ化あと1年 国は完全移行延期の英断を
特集社説2010年07月24日(土)付 愛媛新聞
来年の7月24日。いつでも誰でもテレビが見られる環境は保たれているだろうか。
テレビの地上デジタル放送への完全移行まで、あと1年に迫った。同時に従来のアナログ放送は終了してしまう。
家電エコポイント制度をあてこみ、すでに地デジ対応の薄型テレビに買い替えた家庭も多いことだろう。受信機の世帯普及率は今年3月に83%を超えた。しかし、これはサンプル調査であり、かなり楽観的な数字といえる。
テレビ1億台の時世の現実として、全世帯の地デジ化は相当な困難のはず。制度的、地理的、技術的な課題が残る現状のままでは、数十万、数百万単位で「視聴難民」が出るとの見立てもある。
まず、経済的に厳しい世帯への支援が進んでいない。従来型テレビでの視聴を可能にする簡易チューナーを、国が無償配布しているが、5月末時点で申請は対象世帯の3割程度だ。県内では2万6千世帯が対象とみられる。実態把握は難しく、自治体などとの連携が欠かせない。
中継局の設置が進み、県内での世帯カバー率は93・1%に達した。が、これは配信側の環境を示す数字だ。いざ薄型テレビを買ってみて、初めて自分の家では地デジが見られないことを知る悲劇も起きている。山間部や島しょ部の共聴施設、集合住宅の設備改修も急がねばならない。
深刻なのは想定外の「新たな難視聴区」だ。アナログ波なら受信できるのに、障害物に弱いデジタル波だと受信が困難となる地区を指す。県内では6月末時点で90地区1135世帯に増えている。
都市部のビルなどの陰によって受信障害が起こる地区では、原因の建物に共同アンテナを立てていることが多い。基本的に当事者協議に委ねられるが、新たな負担が伴うこともあり、総じて対応が遅れ気味だ。原因の建物を特定できない例もあり、家庭や個人の対処には限界があろう。
画質向上の利点があるとはいえ、視聴者の負担感はぬぐえない。ケーブルテレビ(CATV)のアナログ変換放送、衛星放送による代替などで事業者も努力している。
来年7月前後にはテレビの買い替え、受信工事の集中が起こりうる。現状の混乱や不安をかんがみて、国は地デジ化の完全移行を延期することも英断ではないか。放送分野の有識者らは2、3年先延ばしするよう提言している。
そもそも地デジ化は国策であることを忘れてもらっては困る。アナログ放送終了後の空き電波の有効活用も大切だが、災害報道などを担うテレビは国民の生活を支える貴重なインフラである。重視すべき公益性は何か。情報通信行政の基本は「誰も置き去りにしない」であるべきだ。
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どうするTV局 アナログ終了、実は地デジ化3週間前
2010年7月16日 asahi
地上波テレビ放送が完全デジタル化する来年7月24日まであと1年余り。テレビコマーシャルなどは盛んに「2011年7月完全移行」をPRしているが、実はアナログによる通常の放送は、総務省の計画では6月末に終わることになっている。7月24日までの約3週間は「移行期間」とされるが、民放トップが異論をはさむなど、迷走ぎみだ。周知不足も重なり、視聴者が大混乱する恐れもある。
話がややこしくなっている背景には、アナログ放送の通常番組を来年6月30日に打ち切ったあとも、しばらくはアナログ電波は流し、7月24日正午をもって電波を止めるという「二段構え」になっていることがある。
総務省は「7月24日に突然アナログ放送を終了すると視聴者が混乱する」と説明。約3週間の移行期間を設け、軟着陸を図ろうというわけだ。
この方針は昨年4月、放送局も入った総務省の協議会で決めた。では、この約3週間に何を流すのか。協議会では三つの選択肢を示した。
(1)通常番組の上にアナログ放送の終了を伝えるメッセージを重ねて放送する(2)通常番組をやめてアナログ終了を知らせる別の番組を流す(3)青い背景画面にお知らせメッセージだけを表示する――という方法だ。各放送局は自らの判断で、いずれかのパターンを選ぶ。
(1)だと、画面いっぱいのメッセージの背景に通常番組が流れ、内容がかろうじて分かる程度。(2)や(3)では、まったく通常番組を見ることができない。7月24日にはこうした放送もやめ、画面は小さな多数の光が明滅する「砂嵐」になる。
ところが、ここにきて各局の足並みが乱れてきた。民放各局が加盟する日本民間放送連盟の広瀬道貞会長(テレビ朝日顧問)は15日の記者会見で、「50年間、アナログ放送を見ていただいた方には、最後の最後まで見ていただきたい」と述べ、7月24日ぎりぎりまでアナログの通常放送を続ける考えを表明。昨年決めた三つの選択肢には、強制力はないものの、総務省幹部は「ちゃぶ台をひっくり返された」と困惑を隠さない。
他の民放やNHKは「どの方式にするか、いつまでに決めるかは固まっていない」。
視聴者に通常番組の終了時期をあいまいな表現で伝えてきたことも、混乱を招く一因になりそうだ。7月1日以降の具体案が決まっていないため、家電メーカーのカタログなどには「7月24日までにアナログ放送は終了」と書かれているものが多い。「までに」という表現で、終了時期をぼやかしてきたわけだ。
「こうした言い方では、普通の人はアナログの通常番組を7月24日の当日まで視聴できると思ってしまう。通常番組は6月30日に終わると、正確に知らせるべきだ」。6月の総務省の検討会では、消費者団体などから告知方法の見直しを求める意見が相次いだ。家電メーカーの委員からは「カタログの文章を変えなければならない。早く決めてくれ」と悲鳴が漏れた。
総務省は最新のパンフレットに、7月1日以降は通常の放送ではなく、三つの選択肢のいずれかになることを初めて画像入りで載せた。放送局にもPRしてもらうよう要請する方針。だが、対応は後手に回り、放送局側の調整不足も含め、視聴者不在の混乱が続きそうだ。
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●愛媛新聞社の24日付けサイト記事:地デジ化あと1年 国は完全移行延期の英断を──これは、まともな社説ですね
●一方、新聞大手各紙は、総務省のデタラメな「世帯普及率」を論評抜きに引用し、さらに地上デジタル放送の完全移行には残り1000万~1100万世帯の対応が必要という「推定」を、なんら根拠を示すことなく記事にしている。この部分は、やっぱり無責任すぎるでしょう。65年以上前の「大本営発表」から、あまり進歩していませんね。社会保険庁の宙に浮いた5000万件の年金記録問題から、「役所のデータを信じると騙される」と学習していないのか? 総務省発表の世帯普及率は信用できないという記者会見に出席し、専門家が書いた詳細な根拠を渡されてなお、総務省のデータだけを伝えたがるのは、なぜ、誰に遠慮しているのか?
◆朝日新聞:地デジ、2割が未対応 移行まで1年「負担重くて…」……「2011年7月24日の地上デジタル放送(地デジ)完全移行まで、あと1年。日本の全世帯の2割強にあたる1100万世帯が、地デジへの対応を終えていない。」
◆読売新聞:地デジ普及へ対策急務……「地デジ受信機の世帯普及率は83・8%(3月時点)と国の目標をかろうじて上回るが、地デジに対応していない世帯数は1000万近く残っており、総務省は普及対策を強化する必要に迫られている。」
◆毎日新聞:クローズアップ2010:地デジ移行まで1年 全世帯普及間に合うか……「来年7月24日の地上波テレビのアナログ放送停止とデジタル放送への完全移行まで残り1年を切った。受信機の普及率こそ8割を超えたが、電波受信に必要なアンテナ交換などが遅れており、今年3月末時点では、全世帯の2割強にあたる約1100万世帯が未対応だ。」
●念のために書いておきますが、私たち(坂本・清水英夫・砂川浩慶・原寿雄)の推定する3月時点での「地デジ世帯普及率はせいぜい60%台」(70%以下)は、総務省調査や内閣府調査に基づいて、誰が計算しても普通に導くことができる数字であって、しかもビデオ・リサーチ社の調査(ただし未公表)にも近い。無責任な総務省や総務大臣が、いくら自分たちの調査数字(83.8%)を強弁しても、私たちの主張する数字(せいぜい60%台=70%以下)を疑う余地はなく、普及の実態という「現実」をひっくり返すことはできません。これは、戦前に大本営発表が米空母何隻大破と大げさに言い、NHKラジオや新聞がそれを伝えても、米軍優位という現実をひっくり返すことができなかった(日本国民は軍部や役所やマスメディアに騙されていた)のと同じことです
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アナログ放送終了まであと1年 電波は止められるのか 池田信夫
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