永田浩三『NHK、鉄の沈黙はだれのために-番組改変事件10年目の告白
なぜNHKは腐敗したのか? 闇に葬られた番組改変事件の真相とは? 制作現場をもっともよく知るインサイダーによる迫真のドキュメンタリー。「私は多くの人たちを困難に巻き込んだ。自己弁護にいまさら何の意味があろう。時計の針をもとに戻すこともできない。ならばせめて、あのときNHKという世界有数の放送企業の舞台裏で、どんな人間が、どれだけの醜態を晒したのか、明らかにしておきたい」
永田浩三『NHK、鉄の沈黙はだれのために/番組改変事件10年目の告白』
(柏書房)
http://www.kashiwashobo.co.jp/
政治家たちの圧力によって、
容が改ざんされた「NHK番組改変事件」。
ま、事件の核心を知るプロデューサーが事件の真相を告白。
永田浩三(元NHK チーフ・プロデューサー)
1954 年大阪市生まれ。東北大学教育学部教育心理学科卒。
入局後、ドキュメンタリー・教養・情報番組のディレクター・
して番組制作に従事。2006 年、NHK アーカイブスエグゼクティブ・ディレク
ター。2009 年に退職、現在は武蔵大学社会学部教授
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土井敏邦:『かたりの椅子』とNHK番組改編事件の告発書(2)
『かたりの椅子』とNHK番組改編事件の告発書(1)
・・・・・・・永田氏は、「“私”を生きる」道を選んだ。そのためのどうしてもやり遂げなければならかなった“通過儀礼”が本書の執筆を通して、あの事件が自分にとって、そして関わった人たちやNHKという組織にとって何だったのかを反芻し、整理する作業だったのだろう。・・・・・・
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NHK番組改変で新証言、海老沢氏は指示否定
川本裕司 2010年08月25日
従軍慰安婦問題を取り上げ9年前に放送されたNHK教育のドキュメンタリー番組「ETV2001 問われる戦時性暴力」。放送直前に改変されたことをめぐり、政治とNHKの距離が問われた。番組の制作担当者が7月下旬に出した著書で、当時の海老沢勝二会長の指示で放送当日に3分間カットされたという上司の新たな証言を明らかにした。
柏書房から出版された「NHK、鉄の沈黙はだれのために」を書いたのは、「問われる戦時性暴力」のチーフプロデューサーだった永田浩三・武蔵大教授。番組取材に協力した市民団体・バウネットジャパンと共同代表がNHKなどを訴えた訴訟の控訴審があった2006年3月、NHKに不利な証言をした。
01年1月26日ごろ、中川昭一衆院議員(当時)の名前をさして伊東律子・番組制作局長が「言ってきているのはこの人たちよ」と話したことや、幹部同士で「安倍(晋三)衆院議員に呼びつけられたのではなく、こちらから出向いたことにしよう」と口裏合わせをしていたとその場にいた吉岡民夫教養番組部長から聞いた、と述べた(1月29日に松尾武・放送総局長と野島直樹・総合企画室担当局長らが安倍議員と面会したあと番組を修正している)。
06年6月に制作現場から外される人事異動となり、09年3月、54歳で退職し大学教員に転じた。
「番組改変事件10年目の告白」の副題がつけられた著書には、「わたしの知る事実をすべて伝え、活かしてもらうためには、『モデル小説』ではなく、たしかに現実にあった事件として本書を執筆する必要があった」と記されている。その中で最も注目されるのは、放送当時の上司にあたる伊東さんから永田さんが東京高裁で判決が言い渡された2007年1月に会って聞いたという内容だ。
放送された01年1月30日の直前、伊東さんが考えを改め松尾総局長と相談のうえ、元慰安婦や加害兵士の証言を3分間カットしたとされている件を問いただす永田さんに対し、次のように述べたという。
「本当のことを言いましょうか。でもこの話がもれたら、永田さん、あなたからもれたということだからね」「じゃあ言うわよ……。会長よ」「そう、会長。それ以上は言えない」。ただ、会長からの指示については何も答えなかった。
永田さんも伊東さんの主張を半ば受け入れるように綴っている。「土壇場で彼女の心が揺れて3分ものカットに動き出したというのは、どうしても違和感がある。放送前夜まで、伊東さんはとても静かだった。てきぱき指示を出すこともほとんどなかった。それがいきなりみずからイニシアチブをとって、改変の傷痕があからさまに残ってしなうような大胆な判断をするだろうか」
伊東さんは09年12月、がんのため死去、事実の確かめようがない。では、海老沢元会長は「伊東証言」をどう見ているのか。8月半ば、本人に会って聞くと、回答が返ってきた。
「本は読んでいない。伊東さんを傷つけることになりかねないのでコメントはしない。事実関係はこれまで主張し、最高裁が判決で認めたとおり」
08年6月の最高裁判決では、「伊東及び松尾の指示に基づき、元慰安婦らの証言場面の一部と加害兵士の証言場面等が削除されたため、最終的に完成し、放送された本件番組は約40分のものとなった」と認定された。
NHKの公式見解では、01年1月30日午後4時ごろ、秘書室秘書主幹から電話を受けた伊東局長は会長室を訪れた。伊東局長は番組の概要について説明し、難しいテーマなので慎重にやっていることを伝えた。これに対し海老沢会長からは特に具体的な指示はなかった。時間は5分程度。やりとりについて会長は記憶していない。
伊東さんは05年7月の控訴審の陳述書で、「会長からは『この問題はいろいろ意見があるからな。なにしろ慎重にお願いしますよ』と言われました」と述べている。
海老沢元会長は05年7月、朝日新聞の取材に対しては「政治的圧力を受けたわけではない。我々の編集権でやった」と言っている。
デスクとして永田さんとともに番組を制作したジャーナリスト長井暁さん=09年にNHKを退職=は05年1月に内部告発の記者会見をした際、「海老沢会長はすべて了承していた」と説明した。今回明らかになった伊東証言については知らなかったという。「海老沢元会長からどんな具体的指示があったかどうかはわからないが、すべてを知っている元NHK理事がいるのは確か。真相を明らかにするためには検証番組を作ることが欠かせない」と訴える。
永田さんは著書で土壇場で修正、削除された番組を振り返り、「解説を引き受けてくれた出演者、取材に応じてくれた人たちに、ひどいことをした。恩を仇で返したのだ、番組放映後に裁判が起こってからも、わたしは見苦しいふるまいを続けた」と自己批判をしている。
「反面教師」の意味合いも込めて執筆した著書に対し、古巣の職員や外部からの反応は「改変事件をトータルとして理解することができた」「きちんと責任を果たしていると感じた」と、総じて温かい内容という。永田さんは「時間はかかるかもしれないが、真実を明らかにする歩みを続けていきたい」と言っている。http://astand.asahi.com/magazine/wrnational/2010082400018.html
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