放送法改正審議に対する「見解」を発表 「放送を語る会」
今国会での放送法「改正」案の審議・採決を急がず、論議を尽すよう要請します。 2010年5月17日 放送を語る会
1950年の放送法の成立以来、例のない抜本的な「改正」案の国会審議が始まっています。
この「改正」は、有線テレビジョン放送法、有線ラジオ放送法、電気通信役務利用放送法の3法を廃止し、放送法に統合する、という大がかりなもので、自公政権時代から追求されてきた「通信・放送の総合的な法体系」へ向かう流れに位置づくものです。
政府は今国会で成立させたい、としていますが、「新放送法案」ともいうべき「改正」案にはいくつか懸念される問題があり、またその内容が複雑多岐にわたるため、国民の理解が充分でないまま、審議が進んでいます。当会は、このような状態がある中で「改正」案の成立を急ぐことに強く反対します。
第一に、「改正」放送法案・・「新放送法案」では、放送に対する行政の規制、介入が拡大するのではないかという心配があります。以下の点はその懸念の一例です。
1)まず、放送の定義が、「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信をいう」と改められます。現行法では「無線通信の送信」ですが、新放送法には有線の放送が含まれることから、広く「電気通信の送信」とされることになります。
かつて情報通信法が構想された段階では、インターネットについても一定の規律が考えられましたが、表現の自由を侵害するとの批判が強く、今回の放送法「改正」案はインターネット規制の内容は入りませんでした。
しかし、近年、インターネット放送局や動画サイト、個人のブログでの発信などが飛躍的に発達、拡大しており、これらが、「電気通信」であり、「公衆によって直接受信されることを目的とする」、という側面をもつことは明らかです。
将来、この側面が強調されて、「放送の定義」が拡大解釈されないかと懸念する人々も少なくありません。「改正」案では、条文上もインターネットを対象にしないことを明確にすべきです。
2)総務省発表の「改正事項概要」の中に、「放送の業務(ソフト)と設備の設置(ハード)の手続きを整理し、あらゆる放送についてハード・ソフトの一致か分離かを事業者が選択可能に」という説明があります。これまでの放送制度を大きく変える「改正」です。
つまり、放送の送信設備など「ハード」だけの放送事業者と、番組制作など「ソフト」の事業を担う放送事業者が、それぞれ別に存在しうることになり、ハード側については電波法による「免許」、ソフト側については、新放送法による総務大臣が「認定」する制度となります。ただし、ハード、ソフト一致を希望する場合は、「免許」だけで足りるという制度も併存します。(現状ではNHK・民放各局などが該当する。)
ハードとソフトが分離している衛星放送では、総務大臣の「認定」制度は既にあるのですが、新放送法では、これが広く地上放送にも持ち込まれることになります。
施設の「免許」ではなく、番組制作など、放送業務(ソフト業務)を対象にした総務大臣の「認定」制度は、行政による放送内容への介入を可能にする温床となって、放送における表現の自由と、放送事業者の自主・自律を規制しないかが懸念されます。制度の是非や内容についてなお慎重な検討が必要ではないでしょうか。
3)新放送法案の第百八十条に、電波監理審議会の「建議及び資料の提出等の要求」という条項があります。これは電波監理審議会が、放送における重要事項に関して「調査審議」し、総務大臣に「建議」できるというものです。ここでの重要事項とは、放送の不偏不党、真実および自律、放送が健全な民主主義の発達に資すること、といった内容です。
総務省は、この調査審議は、放送事業者に対してではなく、行政による放送への介入、干渉を対象としている、と説明したと伝えられています。
しかし、独立性が高くなく、総務大臣の一諮問機関に過ぎない同審議会が、他の行政機関の監視ができるかどうかは疑問です。また、重要事項として挙げられている項目は、「放送編集準則」として具体化され、放送事業者の自律に委ねられている内容ですが、近年、こうした準則違反を理由に行政の介入が繰り返されてきました。電波監理審議会の「調査審議」「建議」が、放送事業者の準則違反を監視するものになるのではないか、という懸念もまた拭えません。
もしこの条項が、放送事業者を対象にするものでないならば、そのことを条文で明確にすべきです。
第二に、新放送法案は、ハード・ソフト分離にみられるように、放送に対する企業のビジネスチャンスを拡大する、いわば産業振興の立場から提案されています。
もし放送法成立以来の大改正であるなら、現代の言論、表現の自由の状況を踏まえて、放送における市民の権利をどう拡大するか、放送における民主主義の保障をどう実効あるものにするかの「改正」であるべきです。しかし、そのような視点はほとんどありません。
近年、地域市民によるコミュニティ放送の発展があり、また、既成放送メディアに市民の発信の場を確保するパブリックアクセスの要求も高まっています。NHK、民放とはちがうこうした第三の潮流に対し、その権利を拡大し、支援する、という現代的な課題も意識されていません。民主党が政策とした、放送行政を政府から切り離し、独立行政委員会にゆだねる、という積極的な方向も、すっかり姿を消してしまいました。
いま、総務大臣主催の「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」が連続して開催され、市民の立場から提言や要求が出されていますが、その論議の成果を待たずに、この新放送法案の成立が急がれることは大問題です。
なお、NHKに関しては、経営委員会を経営委員と会長で構成するという条文が新設されます。経営委員会のメンバーに会長が入るという提案は突然のもので、論議が尽されていません。国会で同意を得て任命される経営委員の、NHK執行部にたいするチェック機能を弱めることにならないか、など、その影響の充分な検討が必要です。
NHKについては、経営委員、会長の選出過程の透明化、公選制、公募制など、受信者の権利拡大の方向へ向かう「改正」こそいま求められているものです。
以上のように、新放送法案は、明確にすべき論点の多い法案であり、充分時間をかけた議論が必要です。それを、条文公表後わずか2か月余りで国会を通過させようとするのは、あまりに乱暴だといわなければなりません。広く国民的論議を求めるべき法案であり、審議、採決を急ぐことのないよう、重ねてつよく要求するものです。
放送法「改正」案の拙速な採決に反対し、徹底審議を要求する
日本ジャーナリスト会議
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