日弁連 表現の自由を確立する宣言~自由で民主的な社会の実現のために~
人権擁護大会宣言・決議集 Subject:2009-11-06
表現の自由を確立する宣言
~自由で民主的な社会の実現のために~
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_res/2009_2.html より
憲法21条1項が保障する表現の自由は、民主主義社会の死命を制する重要な人権である。自由で民主的な社会は自由な討論と民主的な合意形成によって成立するのであり、自由な意見表明が真に保障されていることが必要である。
当連合会は、これまで表現の自由や報道の自由等の重要性を訴え、それが最大限に尊重されるべきであることを表明してきている。
ところが、昨年来、靖国神社をテーマとした映画の上映が政治家の発言を契機として中止されたり、ホテルが裁判所の仮処分決定を無視して集会のための 会場使用を拒否したりするなど、自由な意見を表明することが妨害される事件が立て続けに発生している。また、近年、政府に対する批判の内容を含むビラを投 函する行為に対して、住居侵入罪または国家公務員法に基づいて市民や公務員が逮捕されたり、起訴されて有罪判決が下されたりするなど刑罰をもって市民の政 治的表現の自由が脅かされる事態が生じている。市民が意見を表明する重要な手段の一つであるビラの配布等を、警察、検察及び裁判所が過度に制限すること は、ビラの配布規制にとどまらない市民の表現の自由の保障一般に対する重大な危機である。さらに、表現の自由が保障されなければならない選挙運動において も、公職選挙法に基づき、戸別訪問が禁止され、選挙活動期間中に配布できる文書図画の数や形式が制限されている。重要な表現手段であるビラ配布などに対す るこのような日本の現状について、2008年10月、国際人権(自由権)規約委員会からも懸念が表明され、表現の自由に対するあらゆる不合理な制限を撤廃 すべきであるとの勧告がなされたところである。
さらに、自由で民主的な社会が実現されるためには、市民が社会に関する事実や他者の意見を正しく知ることが保障されなければならないが、市民の知る権利の保障、特に権力に対する監視は、マスメディアの報道の自由の保障なくして実現され得ない。そこで、マスメディアは、報道の自由が市民の知る権利に奉仕し、権力を監視するために保障されていることに重要な意義があることを再確認し、閉鎖的な記者クラブ制度を見直すなど自らを規律するとともに、権力からの不当な干渉に動じることなく多様な報道を行う責務を担っていることを強く自覚すべきである。
他方、放送内容にわたる事項について総務省が行政指導を多発し、放送局に政治家が圧力をかける例が見られる現状に鑑みるとき、放送行政が政府から独立するための制度を確立することは急務である。
情報公開制度も、市民の知る権利が具体化されたものであることを踏まえ、より広く公開されるよう、さらなる改正または構築が検討されるべきである。
加えて、近時のインターネットの発展と普及により、これまで情報の受け手にとどまっていた市民が、社会に対して広く情報発信を行うことが可能となりつつある。インターネットが民主的な世論形成の重要な手段の一つであることは誰しもが認めるところである。しかし、インターネットは、名誉やプライバシーを侵害する情報や子どもの成長発達上好ましくない情報などが広く流通するなどの問題も内包している。そこで、その弊害を防止しつつ、市民が自由に意見を表明し、民主的な合意形成をするために、今後さらに活用されていく必要がある。
よって、当連合会は、以下のとおりの提言をする。
- 民主主義社会における市民の表現行為の重要性に鑑み、市民の表現の自由及び知る権利を最大限保障するため、
(1) 国、地方公共団体、特に警察及び検察は、市民の表現行為、とりわけ、市民の政治的表現行為に対する干渉・妨害を行わないこと。
(2) 裁判所は、「憲法の番人」として市民の表現の自由に対する規制が必要最小限であるかにつき厳格に審査すること。
(3) 政府及び国会は、市民の政治的表現の自由を確保するため、早急に公職選挙法及び国家公務員法などを改正すること。
マスメディアは、報道の自由が市民の知る権利に奉仕し、権力に対する監視を役割とすることを改めて認識したうえ、この重要な役割を十分に果たすよう記者クラブ制度を見直すなど自らを規律し、かつ、権力による不当な干渉を排除して、多様な報道を実現し得るよう努力すること。
国は、市民の知る権利が十分に保障されるため、
(1) 放送行政が政府から独立するための制度を確立すること。
(2) 市民の知る権利が具体化された情報公開法を改正し、さらに、より実効的な情報公開のため公文書管理制度を構築すること。
インターネットの利点を最大限に生かすため、インターネット上の表現活動による弊害の防止は、できる限り自主規制と司法手続によるという制度設計がなされるべきであること。
当連合会は、今こそ表現の自由と知る権利の重要性を強く訴えるとともに、表現の自由を確立する活動を通して、21世紀の日本において自由で民主的な社会が実現されるために全力を尽くす決意であることを表明する。
以上のとおり宣言する。
2009年(平成21年)11月6日
日本弁護士連合会
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