兵士を「持ち駒」、予備軍を「虎の子」の「新鮮な血」と呼んではばからない好戦趣向~『坂の上の雲』は軍国日本をいかに美化したか(第4回)~
多数の犠牲の責任を稚拙な作戦・指揮者に帰す戦術趣向
『坂の上の雲』は日清・日露戦争を題材にした歴史小説であるが、前回、前々回の記事で紹介したように、その内容は交戦当事国、特に日本の陸海軍及び政府の戦争戦略・作戦の巧拙を実況中継さながらに描いた小説である。そこには日本軍の戦闘を指揮した職業軍人、東郷平八郎、乃木希典、山本権兵衛、伊地知幸助らの人物評や日本の命運を左右した作戦の巧拙に関する記述が続き、交戦相手のロシア軍あるいは侵略地・朝鮮、中国の市民がなめた苦難、不幸の描写は全くと言ってよいほどない。また、前線に駆り出された日本軍兵士の犠牲に関する記述が時折みられるが、その描写はあくまでも戦闘作戦・戦術の巧拙を語る傍論でしかない。たとえば、凄惨を極めた旅順総攻撃の模様を記した冒頭に次のような一節がある。
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