ETV2001改変事件-残された課題--武蔵大シンポジウムレポート
シンポジウム ETV2001改変事件・残された課題レポート
~番組の当事者と考えるTVジャーナリズムの現在~
2009年10月24日(土) 午後1時~5時 武蔵大学
パネリスト 長井暁氏 (当時NHKデスク、現ジャーナリスト)
広瀬涼二氏(当時ドキュメンタリー・ジャパンプロデューサ)
永田浩三氏(当時NHKプロデューサー・現武蔵大学社会学部教授)
コメンテーター 野中章弘氏(アジアプレス・インターナショナル)
全体進行と報告 小玉美意子氏(武蔵大学社会学部教授)
(主催者より) ETV事件の背景には、NHKと制作プロダクションとのいびつな力関係があります。武蔵大学では、当時の担当者たちを招き、ETV事件が今も問いかける問題について考えます。特に今回のシンポジウムでは、なぜドキュメンタリー・ジャパンは、放送前に制作現場から離れることになったのか。当初放送しようとしていた番組はどんなものだったのか。当時の担当者に詳細に語っていただきます。
───────────────────────────────────
シンポジウムでは最初に改変前の映像が初めて公開されました。
● 圧倒的現実感の証言と決して雄弁ではない米山リサさんの訥々としたコメントは「裁きなくして和解なし」の意味を理解させるものでした。
● また長井暁氏の
”番制局長名で会長宛に「DJとVAWW-NETがつるんで番組をのっとりPRの場にしようとした」ため我々はそれを未然に察知し防いだのだという報告書が出されている。(NEPとDJを切り捨てることによってみずから身を守るだけではなく、この”功績”により{幹部達は}さらに出世していった。)”ーー
(注:永田浩三氏によれば当初このような”陰謀論”を吹き込まれていたため坂上香さんらのエールにすぐに応えられなかったが、その後DJの広瀬氏に事情を聞きこの説には根も葉もなかったことが解ったと言います。)
ーーとのコメントを聞き、{幹部達の}「災い転じて福となす」術の凄さに危うく拍手するところでした。
以下詳細レポート
メモ
第1部
────────────────────────────────────
2001/1/24の第二回吉岡部長試写用(DJ最終版)DVD
DVDはじまり(48分)
ナレーション
性暴力を「人道に対する罪」として裁く。証人=60人以上
欧州、アジアのメディアからの注目。
今回の法廷のきっかけ=「責任者を処罰せよ」の絵(「責任者」が木に縛り付けられている)
(参照「未来を開く歴史」高文研147p----このページの一番下)
(韓国人元慰安婦 姜徳景(カン・ドクキュン)さん)
(女性国際戦犯法廷の説明
http://home.att.ne.jp/star/tribunal/ から引用
http://www1.jca.apc.org/vaww-net-japan/womens_tribunal_2000/index.html から引用
首席検事発言
東京裁判の欠陥を補う物。
東京裁判では証拠があり裁けたのにしなかった。
この裁判では被告と弁護人がいないため、アミカスキュリエ(法廷助言者)を採用した。アミカスキュリエは、通常死者を裁くことは出来ないと指摘した。
<生き残ってきた女性たちの声に耳を傾けよう。>
●.処女の亡霊となって死にたくなんかない。 ムン・ピルギ(韓国)
●.私たちは、家に帰っても、泣いているばかりだった。だれに言うこともできない。言えば殺されるから。あまりにも恥だったから深い穴を掘って、そのなかに埋めてしまいました。
マキシマ・レガラ・デラ・クルーズ(フィリピン)
●.私は人生を失い、汚れた女と見なされました。生きていくための手段もなく、仕事もほとんどありませんでした。ひどく苦しみました。次の世代の日本人はその親たちがこんなに酷いことをしたのだと、私の苦しみを知るべきです。 高寶珠(台湾)
●.夫が言いました。「どうせ残り物なら、人間より犬のほうがましだ」と。
ベレン・アロンソ・サグン(フィリピン)
●.私は韓国から離れて56年になるので韓国語がうまく話せません。すいません、すいません。
●.1944年17歳で武漢へ(今でも武漢に)
私は処女でした。軍医が処女である証明をした。そのため上官が最初に相手となった。痛くて尿がでなくなってもいやがると殴られた。
●.オランダ軍捕虜収容所から連行されたジャンヌ・オヘネルさん
●.中国山西省の万愛花さん(抗日運動に参加)
(拷問された)私の体を見てください。50年間苦しんできた。(と証言して、気を失った。)
●.東チモールのエスメラルダさん 「私たちはまるで動物のように扱われた」
日本を見るためにきたんじゃない。笑えばいい。正義を得るためにきたんだ。
● 兵士の証言1.元陸軍伍長・金子安次さんの証言
「NHK・ETV特集から消された戦場の証言」から
http://www.ne.jp/asahi/tyuukiren/web-site/syougen/nhk_special.htm (参照)
この問題をぬきにしては戦争の実態はわからない。恥を忍んで証言した。
兵士の証言2.?
米山リサさん
何度聞いても圧倒される。思わず沈黙してしまう。立ちつくす。しかしあなたの気持ちはわかりますと即座に答えることには問題がある。それを自分の言葉に置き換えて、どうなのか。「慰安婦否定」のような日本政府高官の発言、歴史教科書問題など日本の現状のことは彼女らは知っている。そこを自分としてどう引き受けるのかということ。
米山氏 公式謝罪を求めている。
(NHK「女性戦犯国際法廷」番組改竄・米山リサまとめより)
http://postx.at.infoseek.co.jp/NHK-kaizan/yoneyama.html 参照
「日本軍あるいは日本政府が、かつて過去に犯した行為が犯罪であったかどうか、その判断ですね、つまり裁きですね、それを下す手段も経ないまま、したがって、処罰されず免責されたまま、その上で、許されることを前提とした謝罪を行ってきた、そういうふうに見られているからではないかと思うんですね。法廷の主催者の方々がこの法廷を開くにあたって、一つの可能性としては南アフリカで行われている真実と和解委員会、それをモデルにするのではなくて、むしろ刑事処罰を目指した刑事裁判に近いものにしたい、と、そういう判断をされたということを主催者の方がいっている。このことはすごく大切なこと。和解というのは、取り返しようのない、償いようのない過去にどう向き合うかというときに、解決しようのない問題があるにもかかわらず、どこか暴力を受けた側と暴力を加えた側が一気にその大きな深い溝を、一越えられるはずのない溝を越えてしまうんだ、越えてしまおう、という意図があると思うんですね。法廷がそういった和解を前提としたものではない、和解を予め目指したものではない、ということが大事だと思うんです。法的な判断が下されようとしている行為ですね、裁きが下されようとしている行為、それ自体が恐らく和解などは到底許されようのないものだ、それほど償いきれないものだ、謝罪しきれないものだということをある意味で垣間見せているのではないかと思うんですね」
高橋哲哉氏 ラッセル法廷の説明
90年代初めての慰安婦証言
旧ユーゴ法廷 1993年
ルワンダ法廷 1994年
性暴力が「人道に対する罪」として国連人権委員会で認定。
●. 2国間条約は人道に対する罪=「慰安婦」問題には適用されないと国際条約で認定されている。
●. 新しい一歩を踏み出すことが重要。
吉見義明中央大学教授(11/7訂正) 日本軍関与の証拠。 兵士の不満が上官へ向かわないようにするための慰安所
<3日間の審議の結果>
当時既に批准されていた婦女子売買禁止条約、強制労働条約、1907年のハーグ条約、1926年の奴隷条約の国際慣習法に違反している。
日本軍の強姦、慰安婦制度は「人道に対する罪」を構成する。国家責任あり。昭和天皇は有罪。
最終判決は3/4の予定
町永氏 過去の清算をすることが未来への発信につながるというメッセージ。
DVD終わり
永田氏より放送版との違いを説明
1.放送版では前夜の「人道に対する罪」のおさらい長々と。
2.主催者の説明を削除
3.模擬裁判ではなく当事者が参加←削除
4.米山リサさんコメントズタズタ
5.きっかけが「責任者を処罰せよと」の一枚の絵←削除
6.裁判官のこの法廷のねらい←削除
7.他
────────────────────────────────────
第2部
(NHKと制作会社との圧倒的力の差により責任はすべてDJに押しつけられ、坂上氏はドキュメンタリの世界から排除され、広瀬氏は辞表を出し個人プロダクション”ホームルーム”をオープンした。)
広瀬凉二氏、(当時ドキュメンタリー・ジャパンプロデューサ、現ホームルーム・プロデューサ)
●:NHKから話をもらったとき 1.慰安婦問題 2.天皇制 3.フェミニズム の3つのタブーをのり越えてやると決まったのならDJもやりたいといった記憶あり。
●:1/24日は1W前なのに全く吉岡Bと整合がとれていないことに驚いた。怒るだけでどう直せというわけでなく”そもそも慰安婦問題などニセモノ”などの発言が飛び出すほどでこれではとてもやってけないということになった。
●:NHKとの守秘義務契約で一切この件についてしゃべれなくなった。
VAWWーNETに説明にいくときも1人でいってはだめ、NHKのお目つき付き。
その後DJの企画はNHKに一切採用されなくなった。NHKにわびを入れた方がいいと忠告された。
●:坂上香氏が1/30の放送前に「右翼の強い圧力があり異常事態。放送を見ておかしいと思ったらNHKに意見して欲しい。」とのSOSメールを関係者におくった。これが右翼にみつかり大々的に利用された。
DJとしては{ネットに軽率に乗せるべきではない}と坂上氏に戒告しNHKに謝罪した。(*1)
●:朝鮮、戦前、日本とも女性は選挙権もなく一人前の人間として認められていなかった。(戦争責任すら持ち得ない。)今回の改ざんにはこのような古い女性観があったのでは。
永田氏: 1/24の吉岡部長からDJのまえで人間の尊厳を否定する、常軌を逸する罵倒をうけた。
しかしNHKではよくあるパワハラ。吉岡Bとは20年来の師匠と弟子の関係、反論できなかった。
●: 長井、永田は番組論を超えた証言の迫力に圧倒された。
一方吉岡Bは番組作法として”裁きたいが現在の法律では裁けない。歴史の皮肉を描きたい。”
これは主催者には大変失礼なことで、素材をもてあそぶ、2つをぶつけてその皮肉によって番組を描く手法。
長井氏:政治家の動きは1/26以降。
●:番制局長名で会長に「DJとVAWW-NETがつるんで番組をのっとりPRの場にしようとした」ため我々はそれを未然に察知し防いだのだという報告書がだされた。(NEPとDJを切り捨てることによってみずから身を守るだけではなく、この”功績”によりさらに出世していった。)その中にはNEPの「管理不足」謝罪文書、DJの守秘義務違反謝罪文書(坂上香さんのこと)(*1)がふくまれる。永田、長井の報復人事の他に、知られていないが、DJを止めざるを得なくなった広瀬氏、坂上氏、およびNEPの何も知らなかった部長、プロデューサの降格人事等の被害者がいた。
●:(内部告発時)紅白の金の問題がでてNHK内では海老沢辞任しかないという雰囲気だった。
だれも会長に鈴をつけられない状況。コンプライアンス制度ができた。高裁の結審が近かった。
コンプライアンス制度では一ヶ月返事がなければ公表してもいいことになっていた。
●:「NHKをまもるためには嘘をつくこともあり得る」と従業員憲章にいれたらいい。
●:1/30 総局長は永田さんに慰安婦はこれが最後じゃない、またやればいいといったがその後やられていない。
慰安婦問題はNHKでは3つの事件がある
第1次 おはようジャーナル事件
第2次 Nスペ 池田さん (吉岡B担当)
第3次 ETV2001
第2次事件の後遺症?
政治家からの手入れははじめて
野中氏:制作会社はもっと団結していかなくては。
●:高裁判決後のマスメディアは「期待権」などあったら取材できないという対応。
●:彼らはNHKのことしか知らないしその中で保身術にたけたものが出世してゆく。
放送は誰のためにあるのかなどという発想は出てこない。幹部以外の人も同じだ。不祥事、インサイダもそれは不払いが増えるからダメなので、インサイダ自身が問題というふうにはならない。全くお役人。
●: 1.会社に対する従属意識。 沈黙の多数=会社を守る
2.政権交代→視聴者主権
3.検証番組うやむやにさせない
●:NHKの中に共鳴板がなければ外から呼びかけても声にならない。
<会場から>
● Fさん:NHKに抗議したら「編集課程を含む事実関係の詳細」という文書を持ってきて「よく読んでください」といって置いていった。私はよく読んでこれこれがわからない、納得できないとながい手紙を出したが返事がない。
● 池田恵理子さん(NEP、ビデオ塾):1995年からETV特集で慰安婦問題は9年間で5-6回放送した。その都度右翼から猛烈な抗議がきたしその対応もマニュアル化されていた。NHKはそれを知っていてこの企画を承認したはず。なぜおかしな対応したのかわからない。 米山さんの「立ちつくしてしまう。引き取らなければ」と私の気持ちは同じ、
● 永田氏:(池田さんの問いに対し)吉岡部長は米山リサさんの発言に想像できないような嫌悪感を示した。
以上
────────────────────────────────────
「責任者を処罰せよ」の絵
| 固定リンク
「ETV2001」カテゴリの記事
- NHK特番問題:「慰安婦」放送10年 語り始めた現場職員:毎日新聞 2011年2月7日(2011.02.07)
- NHK番組改変の当事者の著書をこう読む - (WEBRONZA)(2011.01.19)
- 日隅一雄弁護士(@yamebun)インタビュー@岩上安身Web Iwakami(2011.01.13)
- 女性国際戦犯法廷から10年(2010.12.11)
コメント