NHKの「編集権」なるもの:世耕参議院議員の質問をめぐって
会の共同代表の醍醐聰です。先日、youtubeが2008年3月31日に開かれた参議院総務委員会で世耕弘成議員が行った質問をアップしているのを知人から知らされ、視聴しました。質問の一部を収録したものですが、まずはお聴きください。http://jp.youtube.com/watch?v=epeyB8HvjAo
私たちは昨年5月20日に開催された同総務委員会において自民党の磯崎陽輔議員が、NHKスペシャル「セーフティネット・クライシス~日本の社会保障が危ない~」を指して政治的に偏向している、取材先も偏っていると攻撃したことには抗議の声を上げましたが、世耕議員のこの質問は看過していました。
しかし、改めて委員会議録で質疑の全容を確かめますと、重大な問題が山積した質問(に名を借りた番組制作への牽制、圧力)であったと感じます。
そこで、議事録の該当部分の全文を抄録としてWord文書に編集したものを添付(こちら)いたします。
下線は、私が注視すべきと考えた部分を示すために追加したものです。
世耕氏の質問事項は次の3点です。
①NHKの編集権は誰に属するのか?②NHKスペシャルの番組内容がワーキング・プアや貧困の問題に偏って いるのではないか? 天皇を戦争犯罪人と扱った、とんでもない番組が制作されたこともある。③経営委員会の了解なしに2名の経営委員が記者会見を行ったことについ て。 そのうちの1人(注:保委員のこと)は小さなタウン誌の編集者であるが、 なぜこのような知名度が低い人物が経営委員に選ばれたのか?
②は個別の放送内容に介入した、放送法に抵触する重大な発言であり、③の前段は経営委員の自律的活動に関する不当な干渉、後段は保委員に対する侮辱です。これらに対する関係者の答弁は要旨、次のとおりです。
①について(福地会長) 法人としてのNHKの会長にある。個々の番組については放送総 局長が分掌している。いずれにしても放送現場には編集権はない。
②について(福地会長) 指摘されたようなテーマだけでなく、日本経済が直面している問題 を多角的に取り上げている。ご指摘の点は十分心得ていく。
③について(総務省小笠原氏) 放送法第16条第1項の規定をなぞった答弁
【私のコメント】
最近、小林英明経営委員(安倍晋三元首相が関わった裁判で安倍氏の代理人を務めた弁護士)や上記の世耕参議院議員の質問に見られるように、NHKの「編集権」は会長にあると見立てて、そうした編集権を会長に行使させることによって、政府・与党にとって煙たい番組を企画の段階で封じ込める、あるいは番組制作に干渉しようとする「新手の」政治介入が顕著になっています。そこでは、NHKの自主自律を守る砦となるべき経営委員会が、政治介入のお先棒を担ぐという逆立ちした現実も見受けられます。
制作現場のスタッフの共同討論を土台にし、取材協力者の意見・提案を傾聴しながら、多様な意見を反映する工夫を凝らして練り上げるべき番組制作について、特定の個人に帰属する「編集権」なるものが存在するかのように誘導する議論は極めて有害であり危険であると私は考えています。
この問題はメディアの専門家だけでなく、多くの視聴者が参加する場で活発に議論されるべき重要なテーマであると思います。
この点で、先ほどのメールでご案内した、福地会長も出席する、「経営委員と語る会in 東京」は、意見交換の貴重な機会だと思います。
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