もしも75年前にSNSがあったら――。実在の人物の日記をもとに、広島への原爆投下を挟んだ日々の出来事や思いを、ツイッターに連日投稿するNHK広島放送局の企画「1945ひろしまタイムライン」がこの夏、批判を浴びた。「朝鮮人の奴(やつ)ら」などの記述が「差別を助長する」という指摘だ。日記を提供した被爆者が取材に応じ、NHKとの間で企画内容についての認識に食い違いがあったことがわかった。若い世代に戦争体験を届けようという試みだが、難しさも浮き彫りになった。(宮崎園子

1945ひろしまタイムライン
NHK広島放送局の戦後75年企画。75年前の経験について、新聞記者の大佐古一郎さん(故人)▽主婦の今井泰子さん(同)▽当時中学1年生の新井俊一郎さんという3人の実在の人物の日記や手記などをもとに、「一郎」「やすこ」「シュン」の名前でツイッターに投稿。高校生や公務員、元民放アナウンサーら計11人が投稿を担当している。フォロワー数は延べ39万超。一郎とシュンの投稿は今年末まで、やすこは9月中旬までの予定。

 投稿のもととなる日記の主は、広島で被爆した3人の市民。その中で唯一健在なのが広島市南区の新井俊一郎さん(88)だ。

 新井さんをモデルにした「シュン」が8月20日、こんな投稿をした。

 《朝鮮人だ!! 大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる!》《怒鳴りながら超満員の列車の窓という窓を叩(たた)き割っていく》

 ネット上では「『朝鮮人』への敵意を煽(あお)っている」「ヘイトツイートだ」などと批判され、NHKがホームページで公開している新井さんの日記原文に同様の記述がないことから「このような創作は許せない」という指摘もあり、投稿は中断された。

NHKと新井さんのやり取り

 75年前の実際の日記は、8月17~27日が空白になっている。ただ、新井さんが2009年に出版した手記には、8月18~21日に家族で広島から両親の故郷・秩父(埼玉県)へ移動する途中に大阪の駅で見た光景として、似た記述がある。

 NHKによると、投稿は日記だけでなく、手記や本人への取材なども参考にしたという。だが、企画についての新井さんの当初の認識は違うものだった。

 「シュン」の投稿が始まったのは3月26日。新井さんは事前にNHKに依頼されて、投稿内容を考える高校生ら10代の5人に、日記の背景などを説明した。しかし、NHK側からツイッターの特性などについての詳しい説明はなかった。番組の中で当時の日記が紹介され、子どもたちが感想などを述べ合うと考えていたという。

 ところが4月3日、企画を紹介する番組を見て、初めてツイッターへの投稿内容を知り、驚いた。

 NHKの担当者にただすと「『日記を原作として、子どもたちと一緒に創作をしている』」と言われたという。「私は激怒しました。日記の偽造だと」

 新井さんはNHK側と話し合い、こんな条件を出した。「75年前の軍国少年の日記だと子どもたちにしっかり認識させた上で、子どもたちの言葉で書くのならば認めます。NHKの責任でやってください」

記述になかった「奴ら」という言葉

 だが、ツイートは「炎上」した。8月20日だけではなく、6月16日の投稿も批判を浴びた。《朝鮮人の奴らは「この戦争はすぐに終わるヨ」「日本は負けるヨ」と平気で言い放つ》

 新井さんの手記には似た内容があるが、書きぶりは異なる。《泥まみれの工事現場で彼ら朝鮮人たちは、平気で言い放っておりました。「この戦争はすぐに終わるヨ」「日本は負けるヨ」》

 新井さんの日記や手記には「奴ら」という言葉は出てこない。「朝鮮人と論争になったとか、侮蔑的な思いで眺めたとか、そういう話も一切していません」

 がんの治療で入院中の新井さんは、2010年から広島平和記念資料館などで証言活動を続けてきた。今回の企画も、戦争や原爆の現実が若い世代に伝わればと思って参加したという。

 「NHKのやり方は意味があると思う。でも、まるで現在進行中の場面であるかのごとく昔の物語を追いかけるのは危険。(投稿内容を)責任を持って慎重にチェックし、出す出さないの判断をするのは、NHKの責任のはずです」

NHK「配慮が不十分だった」

 NHK広島放送局は8月24日、朝日新聞の取材に対して、「時代背景の説明などの注釈をつけずに発信したことは、配慮が不十分だったと考えています。今後、必要に応じて注釈をつけるなど、対応することにしております」と回答。同日、ホームページでも「現代の視聴者がどのように受け止めるか配慮が不十分だった」などとして新井さんら関係者に謝罪した。

 「奴ら」という記述が生まれた経緯についても尋ねたが、同局は「現代風に表現した」と説明するにとどまった。また、「日本史の専門家や、SNSやメディアリテラシーに精通した複数の専門家に必要に応じて相談している」としたが、専門家の名前は明らかにしなかった。「シュン」の投稿は、今月2日に再開された。

津田大介さんの話

 ネットメディアに詳しいジャーナリストの津田大介さんに「1945ひろしまタイムライン」の問題について話を聞いた。主な内容は次の通り。

   ◇   ◇

 NHKは、ツイッターの炎上について「日記をもとにしている」と、(モデルとなる日記を書いた被爆者の)新井俊一郎さんに責任を投げるような形になっているが、それは大問題。NHKに落ち度があったことは間違いないのではないか。

 歴史認識と、それに根付いた現代日本にも続く在日コリアンに対する差別に深く結びついている問題だからこそ、歴史の専門家からきちんと考証を受けなければならない。

 僕だったら企画についてどうアドバイスしたか。ツイッターの場合は(関連するツイートをつなげて投稿する)スレッド機能がある。誤解を招くような表現があったら、それに対して「当時はこうだったけれど」と注釈をスレッドでつける。ツイッターは140字の文字制限があるが、スレッドでつければ表示できる。ある程度誤解というのを防ぐことができる。

 ただ、そもそも論がある。日記をツイッターに流していくという企画自体が良かったのか。ツイッターは、何かのテーマで連続してツイートしても、その複数のツイートを全部読めば理解できることでも、情報を受信した側は一個だけリツイートする。文面が寸断されやすい。デリケートな問題だからこそ、注釈とか丁寧な文脈と一緒に届けることが大事だ。

 ツイッターは、文脈が寸断され、意図と違う形で流れていくプラットフォームなのだから、必要以上に慎重に議論を重ねてやるべきだったというのが僕の考えだ。ツイッターで「バズる」(話題になる)ことと、誤解が誤解のまま拡散していくのは表裏一体。NHKはその危険性について想像力が及ばなかったのではないか。

 若者に間口を広げる戦争報道もやるべきだし、こういうチャレンジ自体は評価した方が良い部分もあるが、「若者に伝えよう」「間口を広げよう」ばかりが先行すると、今回のようなことが起こる。大切なのは、どっちにしても中身だ。

 新井俊一郎さんは存命だ。ということは、確認ができる。「元ネタ」として使わせていただく日記があるのなら、それをどう伝えるか、なぜ若い人に伝える意味があるのか、番組制作者が丁寧にコミュニケーションをとる必要があった。そこが十分だったとは思えない。

 差別の肯定ではなく、当時の時代の空気感を伝える意味でやっているのだろう。だが、ツイッターは140字の字面だけで判断してしまうし、苛烈(かれつ)なヘイトスピーチが野放しにされている場所でもある。NHKが望まない反応を呼び込むことは必至だ。だから、そこについてちゃんと抑止するものが必要だった。「奴(やつ)ら」みたいな演出がなぜ必要だったのか、十分に伝わるような説明をしないといけない。そこが理論武装できていないなら、やるべきではなかった。

 一番大事なのは近現代史の専門家。そこがボタンの掛け違いだったのでは。ネットも近現代史も分かった人とディスカッションして、疑念点を指摘してもらった上で、合議制でやるべきだった。

 問題となったツイートをそのまま残すなら、スレッドで意図を説明するのがいい。ただ、これだけ誤解が加速し、今もそこ(スレッド)に差別を肯定するようなヘイトスピーチがいっぱい連なったままだ。現実として、日本にたくさん住んでいる在日コリアンの人たちに対する加害がある。意図していなくても、結果的にNHKが加害者になっている。ツイッター社が(ヘイトスピーチを削除するという)対応をしないなら、NHKがツイートを削除し、ホームページで経過と意図、何が問題だったかを説明をするべきだろう。

新井俊一郎さんの一問一答

 モデルとなる日記を書いた被爆者の新井俊一郎さんとの詳しいやりとりは次の通り。

 ――「大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が列車に乗り込んでくる」という8月20日のツイートが問題になりました。「こういうツイートをします」という事前確認は。

 全くありません。第一、この言葉は、私の日記のどこにもありません。私の手記やNHKによるインタビューでは、似たような表現をしています。75年前の私のこととして。

 ――「朝鮮人の奴(やつ)らは『この戦争はすぐに終わるヨ』『日本は負けるヨ』と平気で言い放つ」という6月16日のツイートも問題となっています。

 朝鮮人の「奴ら」とかは一切話をしておりません。「軍国少年」シュンちゃんの日記だから、子どもたち(投稿を担当した高校生たち)がそういう表現で書いたのでしょうが、朝鮮人と論争になったとか、侮蔑的な思いで眺めたとか、そういう話も一切していません。いわんや、この言葉をネットに載せるなんていうことは、事前の承諾がないんですから。

 私の友人が「ネットが炎上しているらしいぞ」と連絡してきたんです。私からNHK側に「なんか大変なことになっているが、どうなってるんだ」と問い合わせて、初めて反応がありました。

 ――投稿を担当する高校生たちと新井さんが日記について話し合う「ワークショップ」は、何回くらいありましたか。

 2月に初めて彼らと対面し、直接対面は2、3回。それからコロナが問題になってきたので、画面を通じての(オンラインでの)ミーティングになった。画面を通じての話し合いは2、3回はあったでしょう。

 ――基本的に1945年の日記と同じ流れで、2020年の同じ日に毎日つぶやく。一つ一つのツイートの、新井さんによるチェック作業は。

 そんなことしていたら私、(自分の)仕事ができません。初めから「そんなことはできない。NHKが責任持ってやって」と言っているわけです。4月に最初の番組を放送した途端、内容に疑問を持ったので、「新井の日記をシュン日記として出すのは、私の日記の偽造では」と言った。すると担当者が、「新井さんの日記を原作として、子どもたちと一緒に創作をしている」と言った。私はそんなことを許した覚えは一切ないと激怒しました。すると担当者は、「創作」という言葉は使いませんでしたが、「つぶやきという形で、子どもたちの思いを書き加えたものを投稿させてもらいたい」と言い、私は認めたんです。歩み寄ろうと。「75年前の軍国少年の日記だと子どもたちにしっかり認識させた上で、子どもたちの言葉で書くのならば認めます。NHKの責任でやってください」と。これは私の責任だと思っています。あそこで歩み寄っていなければこんな事態は招いていません。

 ――「シュン」のアカウントの紹介文には、「75年前の中学1年生、新井俊一郎さんの日記などをもとに、今の広島の10代が想像をふくらませ、シュンとして伝えます」とあります。新井俊一郎の名前がある。

 そうなんですよ。だから私の同級生はみんな「お前あんな日記書いてたんか」って。

 ――75年前は軍国少年だった。それを2020年にありのまま伝えるのはなかなか難しい。

 はい。私は、私の日記についての子どもたちの感想とか、評価とかいうことをやっていく番組だと思っていた。

 ――ツイッターについてきちんと理解する必要がある。これまでのワークショップで、ツイッターなどSNSの専門家の方が介在したことはあったか。

 聞いていません。SNS関係、私も素人で分かりにくいから、説明を聞いたこともなければ、SNSの専門家を見たことももちろんありません。

 ――ワークショップに参加したのは、新井さん、高校生たち、そしてNHKの人、と。

 最初のときは、(「シュン」と同様に実在の人物の日記をもとにツイッターに投稿する)「一郎」さんや「やすこ」さん関係の大人の人も何人かいて紹介されましたよ。顔合わせだったんでしょうね。印象的なのは、子どもたち(高校生たち)と昔の話をしていたときに、ヒトラー、ムソリーニが死んだとき、私が日記の中で哀悼の意を述べているという話になった。そしたら担当者が「今でもヒトラーを尊敬していますか」と。そういうふうに思われてるんかなあと思ってがくぜんとした。

 ――注釈なしに投稿した点は、NHKも「配慮が不十分だった」としている。

 もう一つは、現在進行形で出来事を追っているんですね。私に対して「広島に行っちゃあいけないよ」と声をかける。「危ない」と。そのまま追体験しているようになる。そこに「朝鮮人」って。

NHKは「柱を立てた」

 ――新井さんはかつて、地元民放テレビ局に勤めておられました。

 私もテレビ局でドラマ制作をしていましたから分かるんですが、「柱を立てる」という手法ではないでしょうか。今回の企画は劇作家の方が監修しているそうです。「柱を立てる」というのは業界用語で、一番最初に印象的な言葉を置くんです。その後、関連することをゆっくり拡張しながらドラマを作っていく。朝鮮人といったらみんな「?」とくるでしょう。後半になればなるほど、すさまじい状況を描いていますよね。子どもたちがすんなりこんなことを書くかな。大人の手が入ったと思いました。

 ――今回のことが起きた原因は何だと思いますか。

 半分は、私が歩み寄ったがために問題を招いた。残りは、NHKが責任をもって番組を遂行していくと言った、その責任を文字どおり実行しなかったことにあります。子どもたちがツイートとして原稿を書くのはものすごく危険なことですよ。危険なことを承知の上で、必ずチェックをして慎重に、出すか出さないかを判断するということを含めてすべて責任を持つのがNHKのはず。スルーして出てしまった責任がある。

 75年前の戦争体験を持った人間、あの当時の状況が分かってる人間だったら、こんなこと絶対にするはずがない。「厳重に子どもたちを監督指導します」と言われ、歩み寄った私も甘かったと思います。

 ――75年前の日記を今のツイッターに載せるときには、やはり工夫が必要だったのでは。

 ディレクターだったらそんなことは当然考えるべきです。使う使わないか、使うならどう使うか。そこまでが才覚です。

 ――普段、戦争や原爆の報道など見向きもしないであろう人たちも、シュンちゃんのツイッターを追い続けた。良い影響はたくさんあった。エールも実際多い。

 NHKのやり方は意味があると思います。でも、まるで現在進行中の場面であるかのごとく昔の物語を追いかけるのは危険。(投稿内容を)責任を持って慎重にチェックし、出す出さないの判断をするのは、NHKの責任のはずです。無神経にやったNHKさんが大きな隙を見せたなと思います。

 ――1945年当時と今では、75年の価値観や倫理観の隔たりがある。当時多くの人たちが同じように軍国少年、軍国少女だった。

 取り上げるつもりならば取り上げるように、すべてについて練り上げた作品を出さなければ。危険だということは分かっているはずなのに、そこに思い至っていない。

 それからもう一つ言いたいのが、今回の番組は、パソコンやSNSを使いこなせる人たちにはきっと面白いが、使いこなせない私たちのような老人たちにはわからない。最初から、パソコンを使いこなせない年齢層を除外して番組を作っている。全国あまねく、というNHKの本来の任務からかけ離れている。一部の人間しか理解できない番組を作ってよろしいのか。若者迎合がありありとみえる。

 ――迎合ですか。

 若者に理解してもらうために、若者に迎合しているとしか考えられない。使っている言葉、ツイートやブログとかの言葉はそれじゃないですか。

 私の日記には「行軍」という言葉がでてくる。行軍して水源地まで行き、そこで弁当を食べたと日記に書いているんだけど、子どもたちは「行軍」ということより、水源地に行って満開の下でお弁当食べておいしかった、気持ちよかったということに焦点をあてて書いている。当時私たちは、行軍して一糸乱れぬ歩調をそろえて行って、ほっとして弁当を開いた。見方がまるっきり違う。13歳の軍国少年が肩ひじ張って頑張ってる姿を想像してもらおうと思ったのですが。時代感覚が分からない。(宮崎園子
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NHK原爆企画ツイートが炎上 問題の本質は | 週刊金曜日オンライン
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2020/09/08/antena-790/

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NHK、ひろしまタイムライン過去投稿「削除せず移設」2020年10月1日 22時46分

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NHK、批判受けた投稿をHPに転載し残す ひろしまタイムラインの「朝鮮人」記述
毎日新聞2020年10月2日 21時07分(最終更新 10月2日 21時08分)

 NHK広島放送局がツイッターで展開している「1945ひろしまタイムライン」上で「朝鮮人」を巡る記述が差別的だと批判されている問題で、同局は2日、問題ツイートを含む8月までの投稿を削除した上で同局のホームページ(HP)上に転載した。「投稿を残しておくのは朝鮮人への差別を助長する」とツイートの削除を求める声が高まるなか、場所を変えてそのまま残したことについて同局は「一連のツイートを読みやすくするために元々予定していた」と話している。
 問題となったのは「朝鮮人だ‼」「(電車に)座っていた先客を放り出し、割れた窓から仲間の全員がなだれ込んできた!」などのツイート。HPには戦時中になぜ多くの朝鮮半島出身者が日本に暮らしていたのかの簡単な注釈が初めて加えられたが、当時から今に続く朝鮮人への差別意識についての説明はない。ネット上では「差別的な投稿をまた発信している」などと批判の声があがっている。【南茂芽育】

https://mainichi.jp/articles/20201002/k00/00m/040/274000c